あなたはミラ

5

　それから数週間。

「本日はご来場ありがとうございます」

　今日は女性の解説員だ。あれからも時間を合わせて何度も通っているが、女性に当たったのは久しぶりだ。

「……これを、秋の四辺形、と呼びます」

　いつの間にか秋の星座に移り変わっていたらしい。いつも寝ていて気づかなかったが、話をよくよく聞いてみると、こんな解説をしていたのかとハッとする。あの有名なカシオペヤ座が女性だったことも、アンドロメダの母だということも初めて知った。秋の星座に出てくる人物は家族。くじら座が全然鯨に見えないのはおばけくじらだから。初めて知る内容と物語に引き込まれているうちに、解説が終了した。やはり、彼女の解説は起きていられる。

　今度、黒シャツの彼の解説も聴いてみたい。いや、いつも耳には入っているはずなのだが。

　休憩を終えて、午後にはあの小堀自動車へのアポイントがあった。

「それじゃあ社長、また来ますんで」

　社長との打ち合わせを終え、鞄を小脇に抱えながら表の駐車場に出ると、またも彼の軽自動車があった。よく見せに来ているというのは本当だったようだ。

「どうもこうも、これじゃ乗って帰らせるわけにいかないですよ」
「でも、こいつがなかったら通勤もできないし。そもそも今日どうやって帰るか……」

　どうやら前回の様子とは異なり、深刻な状況のようだ。

「どうされたんですか？」
「ああ、先生」

　先生ではないのだが、息子さんはいつも俺をそう呼ぶ。状況を説明してくれた。

「よくここまで乗って来られたなって状態なんで。パーツ交換でいけなくはないですが、範囲が広すぎるんで新しく中古車買っちゃった方がいいレベルですよ」
「そんな金ないの知ってるでしょ。すぐに買えるわけじゃないし」

　あ、しゃべるとこんな感じなんだ。
　……って今はそれどころじゃないんだよな。