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思わぬところで彼の姿を見かけた。担当顧客の有限会社小堀自動車を訪問したら、白い軽自動車の隣で社長の息子と話し込んでいる。ツナギ姿の隣に、黒シャツの細身のシルエット。どう見てもプラネタリウムの彼だ。
社用車を停めて声をかける。
「こんにちは」
「ああ、重谷先生」
「先生じゃないですって」
「親父、中にいるんで」
にこやかに応答してくれる息子さんと対照的に、黒シャツの彼は仏頂面だ。一応彼の目を見ながら「こんにちは」と会釈したのだが、じっとこちらを見つめ返すだけで反応はない。
「分かりました。お話し中お邪魔しました」
諦めずにもう一度笑顔でアイコンタクトを送るが、ふいっと視線を逸らされてしまった。
ーー無視……か。プライベートでもこんな感じなんだな。
あんなに優しい声をしているのに、愛想は全然ない。館内で見かけた冷たい表情はたまたまではなかったようだ。
こちらを警戒しているのか、興味があることにしか反応を示さないのか。いずれにしても、野良猫みたいな人だ。
建物を覗き込んで社長に声をかける。
「こんにちは、安西・鶴見税理士事務所です」
「ああ、重谷君いらっしゃい」
「社長、今表にいるお客さんって、科学館の……?あ、奥さんすみません」
社長の奥さんがお茶を出してくれる。暑い季節の外回りには、冷たいお茶がありがたい。
「そうそう。最近調子悪いみたいでね、よく持ってくるんだわ」
「そうなんですね」
「あれは年季入ってるからね。いつも倅が見てるんだが、いくら整備してもあちこちガタが来てるんだわ」
社長がそう言うなら相当なものだろう。
おしゃれな彼のことだから、乗っている車も小洒落たものを想像していた。見た感じは綺麗に手入れされていたが、そんなに古い軽に乗っているとは。イメージが次々と崩れて、かえって彼に興味が湧く。
社用車を停めて声をかける。
「こんにちは」
「ああ、重谷先生」
「先生じゃないですって」
「親父、中にいるんで」
にこやかに応答してくれる息子さんと対照的に、黒シャツの彼は仏頂面だ。一応彼の目を見ながら「こんにちは」と会釈したのだが、じっとこちらを見つめ返すだけで反応はない。
「分かりました。お話し中お邪魔しました」
諦めずにもう一度笑顔でアイコンタクトを送るが、ふいっと視線を逸らされてしまった。
ーー無視……か。プライベートでもこんな感じなんだな。
あんなに優しい声をしているのに、愛想は全然ない。館内で見かけた冷たい表情はたまたまではなかったようだ。
こちらを警戒しているのか、興味があることにしか反応を示さないのか。いずれにしても、野良猫みたいな人だ。
建物を覗き込んで社長に声をかける。
「こんにちは、安西・鶴見税理士事務所です」
「ああ、重谷君いらっしゃい」
「社長、今表にいるお客さんって、科学館の……?あ、奥さんすみません」
社長の奥さんがお茶を出してくれる。暑い季節の外回りには、冷たいお茶がありがたい。
「そうそう。最近調子悪いみたいでね、よく持ってくるんだわ」
「そうなんですね」
「あれは年季入ってるからね。いつも倅が見てるんだが、いくら整備してもあちこちガタが来てるんだわ」
社長がそう言うなら相当なものだろう。
おしゃれな彼のことだから、乗っている車も小洒落たものを想像していた。見た感じは綺麗に手入れされていたが、そんなに古い軽に乗っているとは。イメージが次々と崩れて、かえって彼に興味が湧く。
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