あなたはミラ

秋野小窓

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「…………だんだんと、空が明るくなってきました。朝が来たようです」

 周囲の明るさに、パチっと目を開けると、40分の上映が終了するところだ。いつも起きるとこのタイミングなのである。

 女性スタッフの時は内容まで見て、聞いているが、むしろこれを狙って来ている。

 ーー今日もぐっすり眠れたよ。解説のお兄さん、ありがとう。

 終了のアナウンスを聞きながら、首を左右にゴキゴキと鳴らして席を立つ。頭がすっきりとして、午後も頑張れそうだ。
 鞄に入れてきたおにぎりを頬張りながら銀杏並木を抜け、事務所に戻る。

重谷しげたに戻りましたー」
「お疲れ様でーす」

 ここ、安西・鶴見税理士事務所が俺の職場だ。科学館から徒歩4分のビルに入っている。昼の息抜き場所を見つけたのはたまたまだったが、以来この最高の立地には感謝している。
 愛用のマグカップにコーヒーをなみなみと注ぎ、デスクに戻る。

「あれ、鶴見先生は?」
「NK商事さんのところにお出かけになってますよ。そのまま何軒かお客様のところ回ってくるんじゃないかしら」

 新人事務員の佐藤さんに質問したつもりが、ベテランの沼田さんから答えが返ってくる。

「そうですか。NKさんのところ訪問されてるなら大丈夫です。昼に連絡来てたんで」
「いつもお昼すみません、私残りますから……」

 今度は佐藤さんから申し訳なさそうな声が飛んできた。

「いいんだよ。先生たちがいるときに事務所にいてもらった方が助かるからさ」

 休憩時間をずらしたいだけではなく、それも本心だ。先生からこまごまとした雑用……っと、じゃなくて、仕事の指示があったときに、女性陣に対しての方が頼みやすいらしい。世の中は男女平等、ジェンダーフリーに移り変わっているのに、俺たちの業界はまだまだ化石だ。

 さて、と。今日も仕事は山積みだ。PCのスリープを解除し、担当顧客の会計処理を続ける。
 税理士事務所というと、税金に関するプロフェッショナルな仕事だと思われがちだが、実際はそうでもない。顧客は中小零細企業が中心ということもあって請け負う仕事は幅広い。税務に限らず経理関係のことは一通り、加えて給与計算なんかも任される。やってもやってもいくらでも仕事があるから、怒られないギリギリまで残業する毎日なのである。
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