ディストピアライラック

旭雪総一

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第1話

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「行って来ま~す」
 7時30分。蒼桜学園2年D組の織城啓伍おりしろけいごは、自宅を出た。登校の為である。
「今日の授業なんだったっけ……」
「おはよう! 元気?」
 歩いていると、後ろから声を掛けられる。
振り返ると、その人物がクラスメイトの西園寺遥馬さいおんじはるまであると分かる。
「嗚呼……俺ならいつも通り」
「今日さ、放課後どっか遊びに行かない?」
 啓伍が返すと、遥馬が言った。それを聞き、
1つの疑問が浮かんだ啓伍は、遥馬に
問い掛ける。
「え? ……お前、部活は?」
「嗚呼、今日休みになった。俺もなんでかは
知らないけど」
 2人が話していると、突然後ろから声を
掛けられた。
「楽しそうだな、俺も行っていいか?」
 共にD組である鷹司紘貴たかつかさこうきが、啓伍と遥馬に 言う。
「俺は良いけど……啓伍は?」
 遥馬が、啓伍に尋ねた。
「別に。俺も遥馬次第だったからな」
「……OK。じゃあ、放課後に駅の東口で
集合ね」
 そう答える啓伍。紘貴に対し、遥馬は
言った。
「サンキュー、そろそろ着くな」
 紘貴が言う。2人が視線を逸らすと
『AOZAKURA ACADEMY』と
刻まれた金属のネームプレートが
はめ込まれた門があった。
「啓伍と紘貴は先行ってて。俺後で行くから」
 2人に対し、遥馬が言う。その言葉通りに、啓伍と紘貴はD組に向かう。階段を上り、廊下を歩いて2番目の部屋が彼等の学級だ。
「あ、啓伍と紘貴じゃん」
「おはよう!」
 D組に辿り着くと、声を掛けられる。それはクラスメイトの秋穂瑛菜あきほえな藍染直輔あいぜんなおすけだと   分かる。
「嗚呼、瑛菜と直輔か。後の3人は?」
「分かんない。そろそろ来るんじゃない?」
 瑛菜が啓伍に言う。
「え~……でも、昨日凄い時間までゲーム
やってたからさ。遅刻すると思うけどね」
 そう返す直輔。その時、教室の後ろの扉が
開き、教室に3人の少年少女が入って来る。
「良かった! 間に合った!」
「もう夜更かしはやめな?」
「俺もう遅刻すると思った……!」
 緑野竜斗みどりのりゅうと桃山希愛ももやまのあ金森達也かなもりたつや。直輔と瑛菜の友達だ。
「今来たんだ、昨日何時までやってた?」
「分からん。ただ23時は過ぎてた」
 問い掛ける直輔。達也が返す。
「ちゃんと宿題やって来たよね?」
「あ……マズい、やってない!」
 瑛菜に尋ねられて思い出し、焦る竜斗。
その時、遅れて教室に来た遥馬が言う。
「俺の問題集貸そうか? 全部写して、
間違ってても自己責任だけど」
「マジで? サンキュー、遥馬!」
 その傍らで、啓伍は問い掛けた。
「なあ、あっちは一体何の話であそこまで
盛り上がってんだよ?」
「昨日のSって人の新曲だよ、多分」
 答える希愛。その視線の先では甲斐日葵かいひまり藤堂舞桜とうどうまお冬室紗雪ふゆむろさゆき御厨千莉みくりやせんりが『S』というアーティストの楽曲の話題で盛り上がって  いた。
「Sさんの新曲聴いた!?」
「うん、聴いた! めっちゃ良かったよね!」
「過去の曲の要素? とかも入ってるっぽい」
「MVも凄かったな~」
 話す4人。教室の右側でも、何やら話をしていた。
「本当昨日の配信面白かったよね!」
「同接9000人だって! 今まででトップじゃない?」
「え? 嘘でしょ、昨日あったの?」
 とあるストリーマーの配信の話題で盛り  上がる斑目虹葉まだらめにじは三宮六花さんのみやりっか、そして2人の話を聞き驚く十文字心子じゅうもんじここ
「うん、あったよ。心子も見たでしょ」
「あぁ……昨日、夜出掛けててさ。帰って来たのが22時過ぎだったから寝ちゃった」
 3人が話していると、1人の少女がやって
来る。
「ねえ、ペン貸して」
 駿河百するがもも。D組のクラスメイトだ。
「え……なんで? 自分のペン持って
ないの?」
「良いから早く」
 困惑する虹葉。百は、高圧的に貸すよう
迫る。
「ダメでしょ。自分のペン使って」
 心子が言った。するとその瞬間、百が
心子の右頬に平手打ちをした。
「……へ?」
「あのさ、何様のつもり? マジで。
なんでペン1本も貸せないわけ? 本当
意味不明なんだけど」
 そう言って、百は去って行った。普通
なら、百に絶対的にペンを貸さなければ
いけないというルールはない。だが、
D組は違った。百は、クラス内で圧倒的な
権力を持っており、彼女に逆らう事。
それはD組では自殺も同然なのだ。
「何様のつもり? それ自分だろ」
「こんな奴がクラスの女王気取ってんの
ヤバい」
「図に乗るのもいい加減にしたらいいと
思う」
 陰口を叩く七瀬寛仁ななせひろひと九鬼武虎くきたけとら八神裕作やがみゆうさく
3人が話していると、1人の少年がやって来て言う。
「何話してんだよ? 俺も混ぜてくれよ」
 空本泰造そらもとたいぞう。彼も百と同じく、D組の中でも 絶大な力を持っている。
「別に……変な話では無いから」
「じゃあ教えろよ。なあ、別に誰かの
陰口って訳じゃあ無いんだろ?」
 裕作が答える。それに対し、圧を
掛ける泰造。
「泰造、俺聞こえてたけど……
めちゃくちゃ百の悪口言ってたぞ」
「…………!?」
 そう言うのは泰造や百と同じく、
D組で絶大な権力を持つ四辻修よつじしゅう
「お前等汚いな~、やり口が」
「マジで見損なったわ、なあ? 俺、正直
悲しいよ。このクラスにそんな奴がいた
なんて」
 修と泰造が口々に言う。
「まあ良いや……俺たちは別に良いけど、
世の中ってのは意外と見てるぜ? 善行も
悪行も」
 それだけ言って、泰造と修は去って
行った。
「良かったね、本当に。何もなくて」
「見てて怖かったよ? こっちは」
 二条紫にじょうゆかり乾綾音いぬいあやねが言う。その後ろでは、 2人の少年が必死に問題集に取り組んでいた。
(ヤバい……完全に忘れてた!)
(提出2時間目だった! 急げ、俺!)
 内心呟きながら、問題集に答えを書き込む氷見翔大ひみしょうた不知火戒慈しらぬいかいじ。そんな彼等の様子を 廊下から見ている1人の少年。
「今日も変わらないなぁ……D組は」
 月詠颯一郎つくよみそういちろう。彼はD組では不思議な立ち位置にいた。泰造や修、百と同格であるにも   関わらず、今まで彼等のような横暴な振る舞いを見せていなかったのだ。
「おはよう! 何してるの?」
「嗚呼、凛ちゃんと蓮くんか。……クラス
メイトの観察、かな」
「別に教室でも出来るだろ……」
 村雲凛むらくもりん村雲蓮むらくもれんの姉弟。3人で話していると、凛が言った。
「あ! そういえばさ、最近駅前に出来た
カフェがあるんだけどさ。一緒に行こうよ」
「僕は別にいいけど……」
「ダメだよ。全く、アタシが少し隙を
見せれば、すぐ颯くんを奪おうとするん
だから」
 2人を睨みつけて言うのは、颯一郎の交際
相手である白銀羽衣しらがねうい
「で? アンタたち害虫がアタシの
颯くんに何の用?」
「はぁ? なんだよ、颯一郎がいなければ
何も出来やしない寄生虫のくせに」
 『害虫』や『寄生虫』などと言い争う羽衣と蓮。見かねた颯一郎は、羽衣に言った、
「羽衣ちゃんも落ち着きなよ。別に君も来れば良いじゃないか」
「なんで? なんでこんな奴等の方に
行くの? 約束してたじゃん、そこには
絶対アタシと行くって。なんで守れないの? 
大切な女の子とした約束でしょ?」
 涙を流しながら颯一郎に訴えかける羽衣。
「はぁ? そんなの知らないよ、じゃあ
そうやって言えばよかったじゃん!」
 羽衣に対し、凛は言う。そこに1人の
少女が言う。
「全く、酷いわね……アナタたちって」
 桐生志歩きりゅうしほ。泰造や百、修と同じくD組で絶大な権力を持つ人物の1人だ。
「相思相愛。恋仲にいる2人の事を引き裂こうとするなんて……言語道断。最低な行為よ」
 悔しさのあまり、羽衣を睨みつける凛と蓮。
「まあ。アナタたちは『自分が何をしてるか』
よりも『自分は何をしたいか』を優先するん
ですものね」
 それだけ行って、志歩は去った。間もなく、
颯一郎も羽衣を連れて教室に向かう。
「そんなに泣かないで。君に涙は似合わない
からさ」
「うん、でも……颯くんがいなくなりそうで
怖くて、つい……」
 引きつった声で、羽衣は返す。
「大丈夫だよ。僕はどこへも行かないよ」
「良かった……もう、1人ぼっちには
なりたくないから……」
 羽衣は、静かに呟いた。
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