ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません～冷酷な伯爵様とは誰のこと？～

１

「メリーナ、お前との婚約を破棄する！」

　王城での夜会の最中、突然そう言い渡された。
　その言葉を発したのは、この国の第一王子。金髪碧眼で整った容貌の、私の婚約者だ。
　ざわつく場内。皆の視線が私に注がれる。


「そして妹の、リリア公爵令嬢を婚約者として迎えることにした」

　続く言葉に、私は頭の中が真っ白になった。
　殿下の隣に、寄り添うように立つリリア。綺麗に巻かれた、お母様譲りの淡い桃色の髪が、美しく揺れた。


「リリア……、どうし、て……」

　唇が震え、上手く言葉が出ない。

「だって、お姉さまが王太子殿下の婚約者だなんて、ねぇ？」

　リリアはクスリと笑う。いつものリリアじゃないみたいな、見下した顔で。

　どうして？　いつも応援してくれたじゃない。殿下はお姉様をちゃんと愛してるわ。そう言っていつも元気付けてくれた。それなのに……。

「安心して？　お姉さまには、心優しい殿下が、別のお相手を選んでくださったわ」
「え……？」
「バルロス伯爵様よ」

　その名を聞いて唖然とした。
　彼は醜悪な容姿ながらその権力を濫用して、街から美女を呼び側室にしては、飽きれば物のように捨てると聞く。美女以外でも胸が豊満なら許容範囲という男。
　そんな相手に私を差し出そうなんて……。


「お姉さま。とぉってもお似合いでしてよ？」

　会場中の笑いものになったその時、私は思い出した。

　そう……前世の、記憶を。

　私は、某百貨店で働く、美容部員だった……！


　その瞬間、身体が異様に重く感じた。全身に米の袋を着けたように、ずっしりと。
　それもそのはず。
　手はウインナーのようにパンパンで、ウエストにくびれはなく、脚は重い体重を支えるために、ヒールのない靴を履いている。
　何を思ったか細身のシルエットのドレスは、はち切れんばかりだ。

　確かに、この体型では……。
　妹の気持ちも、わかる。
　わかるわ。

　でも、こんなに大勢の前で晒し者にしなくてもいいじゃない！


　私は、泣きながら会場から逃げ出した。
　婚約破棄が悲しいからじゃない。
　妹に裏切られたからじゃない。

「っ、悔しい……！！」

　この世界ではスリムな体型が美の絶対条件とされる。女性らしい丸みは残しつつ、スリムであること。

　今の私には言い返すことが……戦える武器がないことが、悔しい。
　あんな連中に笑われて、殴れもしないこの腕と地位が悔しい。


　絶対に……絶対に、見返してやる！！