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婚約解消されたら、王様に寵愛される騎士になりました(年の差)
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しおりを挟む「……オーガスタ嬢は、彼をどう思っている?」
「辺境伯のご子息に嫁ぎ、国境を守ることは、国のためになると考えてはおります。ですがそれは、嫁がずとも出来ることです」
私の答えに、宰相様は満足そうに頷いた。
「貴族ならば、家の、国のための婚姻をすべきだと理解しております。……ですが」
視線を伏せ、刀の柄を握る。
「オーガスタ嬢。正直な思いを聞かせて欲しい」
「……恐れながら、その……私にとってあのお方は…………幼い子供にしか、見えないのです」
彼は強いものの、剣を大振りする。大声で笑う。軽々しく触れてくる。完全に好みの問題で申し訳ないが、結婚したとしても、到底夫とは思えそうにない。
「年齢が上なら良いというわけではありません。落ち着きや考え方、物事の価値観、佇まい、……顔」
宰相様が、顔、と反芻して笑いをこらえた。
「でしたら、陛下が条件にぴったりですね」
「はい。と申しましても、男性の好みというものを今、初めて自覚したのですが」
元の世界では家同士の結婚だった。優しい男性だったからいさかいもなく、不満もなく、だからこそ好みなど気にしたこともなかった。
「陛下。辺境伯が正式に婚約を申し込まれれば、伯爵家のご令嬢は断れませんよ」
その言葉に、陛下は顎に手を当ててうつむく。
その姿も様になっていて……100数年目の真実。私は、面食いだったみたいだ。
「オーガスタ嬢……」
一歩近付いた陛下が、緊張した面持ちで私を見つめる。
「私は、あなたの美しくも意思の強い瞳に、……本当は、初めてあなたの剣技を見た時から、惹かれていたのだ」
緊張と罪悪感の混ざった表情。いつも堂々とした陛下のそのお顔に、胸が熱くなった。
「40は若者だと言う、その言葉に甘えて……」
そこで言葉を切る。一度口を開いて、閉じる。
40歳でも、落ち着いていても、やっぱり年下。
でも、年下を可愛くて愛しいと……愛したいと思ったのは、陛下が初めてだ。
「あなたの手を取り、恋を始めても……いいだろうか」
「はい、ぜひともっ」
つい熱のこもった返事をしてしまう。安堵して目元を緩める陛下は、やはりとても美しくて、可愛い人だった。
***
恋は愛になり、20歳を迎えた私は王妃となった。
翌年、双子の王子が誕生したのを機に、カイル殿下は「王になるのが本当はずっと嫌だった」と言い、清々しい顔で王位継承権を放棄した。
そして間もなく、カイル殿下は気弱な侯爵令嬢と運命的な恋に落ち、入り婿となる。
プライドも正しく使えば、堂々とした風格になる。殿下は今日も、令嬢と家を守るという使命に燃えていた。
そして、私はというと。
「オーガスタ。結婚しても私は、刀には勝てないのだろうか」
「そんなことありませんわ。キリアンも刀も、同じくらい好きですもの」
「そうだろうね……。だが人間の中で一番なら、それで……」
「一番……いえ、私が恋をするのも、男性として愛するのも、キリアンだけです」
未だに年齢を気にして遠慮がちになってしまうキリアンが、とても愛しい。
今も刀は手放せないけれど、キリアンはそれが私の魅力だと言ってくれた。自分も愛するものを決して手放せないから気にしないで欲しいと。
……その手放せないものが私だと言われた時は、もう何度目にもなる恋に落ちてしまった。
―END―
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