短編集:婚約破棄

柊木 ひなき

文字の大きさ
上 下
11 / 18
婚約解消されたら、王様に寵愛される騎士になりました(年の差)

しおりを挟む

「……オーガスタ嬢は、彼をどう思っている?」
「辺境伯のご子息に嫁ぎ、国境を守ることは、国のためになると考えてはおります。ですがそれは、嫁がずとも出来ることです」

 私の答えに、宰相様は満足そうに頷いた。

「貴族ならば、家の、国のための婚姻をすべきだと理解しております。……ですが」

 視線を伏せ、刀の柄を握る。


「オーガスタ嬢。正直な思いを聞かせて欲しい」
「……恐れながら、その……私にとってあのお方は…………幼い子供にしか、見えないのです」

 彼は強いものの、剣を大振りする。大声で笑う。軽々しく触れてくる。完全に好みの問題で申し訳ないが、結婚したとしても、到底夫とは思えそうにない。


「年齢が上なら良いというわけではありません。落ち着きや考え方、物事の価値観、佇まい、……顔」

 宰相様が、顔、と反芻して笑いをこらえた。

「でしたら、陛下が条件にぴったりですね」
「はい。と申しましても、男性の好みというものを今、初めて自覚したのですが」

 元の世界では家同士の結婚だった。優しい男性だったからいさかいもなく、不満もなく、だからこそ好みなど気にしたこともなかった。

「陛下。辺境伯が正式に婚約を申し込まれれば、伯爵家のご令嬢は断れませんよ」

 その言葉に、陛下は顎に手を当ててうつむく。
 その姿も様になっていて……100数年目の真実。私は、面食いだったみたいだ。


「オーガスタ嬢……」

 一歩近付いた陛下が、緊張した面持ちで私を見つめる。

「私は、あなたの美しくも意思の強い瞳に、……本当は、初めてあなたの剣技を見た時から、惹かれていたのだ」

 緊張と罪悪感の混ざった表情。いつも堂々とした陛下のそのお顔に、胸が熱くなった。

「40は若者だと言う、その言葉に甘えて……」

 そこで言葉を切る。一度口を開いて、閉じる。
 40歳でも、落ち着いていても、やっぱり年下。
 でも、年下を可愛くて愛しいと……愛したいと思ったのは、陛下が初めてだ。


「あなたの手を取り、恋を始めても……いいだろうか」
「はい、ぜひともっ」

 つい熱のこもった返事をしてしまう。安堵して目元を緩める陛下は、やはりとても美しくて、可愛い人だった。




***




 恋は愛になり、20歳を迎えた私は王妃となった。
 翌年、双子の王子が誕生したのを機に、カイル殿下は「王になるのが本当はずっと嫌だった」と言い、清々しい顔で王位継承権を放棄した。

 そして間もなく、カイル殿下は気弱な侯爵令嬢と運命的な恋に落ち、入り婿となる。
 プライドも正しく使えば、堂々とした風格になる。殿下は今日も、令嬢と家を守るという使命に燃えていた。


 そして、私はというと。


「オーガスタ。結婚しても私は、刀には勝てないのだろうか」
「そんなことありませんわ。キリアンも刀も、同じくらい好きですもの」
「そうだろうね……。だが人間の中で一番なら、それで……」
「一番……いえ、私が恋をするのも、男性として愛するのも、キリアンだけです」

 未だに年齢を気にして遠慮がちになってしまうキリアンが、とても愛しい。

 今も刀は手放せないけれど、キリアンはそれが私の魅力だと言ってくれた。自分も愛するものを決して手放せないから気にしないで欲しいと。



 ……その手放せないものが私だと言われた時は、もう何度目にもなる恋に落ちてしまった。





―END―


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

私は身を引きます。どうかお幸せに

四季
恋愛
私の婚約者フルベルンには幼馴染みがいて……。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

【完結】婚約破棄?ってなんですの?

紫宛
恋愛
「相も変わらず、華やかさがないな」 と言われ、婚約破棄を宣言されました。 ですが……? 貴方様は、どちら様ですの? 私は、辺境伯様の元に嫁ぎますの。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...