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第2編皇帝陛下と軍制改革

第13章決戦

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その後、しばらくして突厥と戦う高仙芝の元に李憲の部隊が到着した。
その部隊の数は15万で高仙芝の部隊10万と合わせて25万となる。
また李憲の部隊は精鋭揃いである上に騎兵を含んでおり、突厥の部隊に対抗できる程の機動力があった。

李憲は辺境地域に到着すると、出迎えた高仙芝と鈴京に言った。
「随分と大変な苦労をさせてしまいましたね。ですがもう大丈夫です。皆で協力して辺境の民を守りましょう。」

李憲の言葉を聞いて高仙芝は身構えた。
李憲は悠基の義兄であり、現皇帝の懐刀として有名である。
その李憲が来たという事は皇帝が本気で突厥と事を構えようとしていることを示していた。

そして高仙芝は言った。
「いえ。私なんかにはもったいないお言葉です。微力ながらお力添えさせていただきます。」

すると高仙芝の肩の上に乗り、なにやら考える様子を見せていた鈴京が言った。
「どういうつもりだ?」

李憲はこの栗鼠を将軍として扱う様に悠基に強く言われていた。
そのため将軍が質問をしてきた場合と同様に丁寧に答えた。
「どういうつもりとはどういう意味でしょうか?」

鈴京は言った。
「これでの籠城しろという命令は理解できない事は無い。確実に住民の安全を確保しようと思ったら合理的な手段だからだ。だがそらならばなぜ今になって援軍を送ってきた?しかもこの量は本気で突厥と戦争しようって言う量だ。どうせ突厥と戦争するつもりなら、初めから戦わせてくれよ。そうすれば突厥になめられてこんな好き勝手に略奪される事もなかったのに」

すると李憲は鈴京に対して頭を下げた。
「すみません。つらい戦をさせました。ですがあなた方の苦労は無駄ではありません。陛下は元々、突厥をなめさせて好き勝手に略奪をさせることを狙っていたからです。」

それを聞くと鈴京は言った。
「成る程な。狙ってやってたのか。略奪をさせる事を作戦に組み込むとは相変わらず恐ろしい奴だ。自分の判断で民の生活を切り捨てるんだ。生半可な覚悟じゃできる事じゃねえぞ。それで。具体的にはどういう作戦なんだ?」

李憲は言った。
「突厥軍の目的はご存知の通り略奪です。そのため敵国の軍と戦争している間は統制がとれますが、勝利し略奪を行なう段階になると部隊が散開し財物を求めて各地を探索しますし、仲間割れも珍しくありません。そして高仙芝殿が命令に従って全く抵抗する意思を示さずに籠城に終始して下さったおかげで、突厥軍は完全に戦争から略奪の方に意識が動いています。既に軍としての体裁をなしておらず、各自がばらばらに略奪を行なっている状態です。」

李憲がそこまで話すと鈴京が言った。
「なる程。今が叩き時ってわけだ。だが急がないとまずいな。援軍が来た事は向こうにも伝わるだろう。」

李憲は鈴京の適切な指摘にこの栗鼠の将軍としての優秀さを感じた。
そして言った。
「はい。ですから、我々はあなた方に連絡もせず強行軍でこちらに向かいました。敵は一度、統制を失っていますから、もう一度体制を整えるには最低でも1週間はかかるでしょう。ですからこちらは3日で部隊を再編成し、突厥の攻撃を行ないます。」

その言葉を聞いて高仙芝が言った。
「しかし、そんなに短期間で編成を行う事が出来ますか?」

李憲は悠基の言うとおり、ここで一つ判断を止めて問題点を指摘できる高仙芝の落ち着きは鈴京はまた別の意味で将軍に向いていると思った。
そして李憲は言った。
「はい。過去にも経験があります。それに今回は出発前に優秀な官僚達を使って、編成の手段や方法について緻密な計画を立ててきました。この計画に従って行なっていけば最短で2日長くても4日で編成が出来るはずです。期限は5日。5日で終わらなかった部隊は城に残して行きましょう」

鈴京が言った。
「ふーん。随分自信あるんだな。まあお手並み拝見ってとこか。」

その言葉を聞いた李憲は笑みを浮かべて言った。
「随分ひとごとのように仰るんですね。」

鈴京は李憲の笑みを疑わしい目で見つめて言った。
「ひとごとじゃないのか?」

李憲は高仙芝の肩にのっている鈴京をまっすぐ見つめて言った。
「はい。この作戦の成功にはあなたたちの献身がかかせません。この5日は眠れないと思ってくださいね。」

鈴京は思った。
この男は本気であると。
そこで鈴京はこの後、予想される将軍としての誇りを捨てて鳴いた。
「きゅる。きゅる。」

高仙芝は今まで見たことのない鈴京の姿に驚いた。
しかし、李憲は狐に慣れているため、動物に容赦が無い。
李憲は言った。
「鈴京殿。あなたがたとえただの栗鼠であったとしても、既に将軍である事に違いがありません。働いていただきますよ。」

鈴京は言葉にならない悲鳴を上げたのだった。

○○○        

そしてその言葉の通り、鈴京と高仙芝と李憲は軍の編成を開始した。
李憲の計画は言葉の通り、あらゆることが想定されていた上、李憲と李憲が連れて来た実行役の官僚達も優秀であったため、軍の編成は順調に進み結局3日で編成が終わった。

その様子を眺めながら鈴京が李憲に言った。
「俺は今まで勘違いしてたぜ。あんたって相当な化け物なんだな。」

その言葉を聞くと李憲は寂しげに言った。
「そんな事はありません。私はたしかに、決められた事をするのは得意なのですが、応用が利かないのです。その事は日々痛感させられていますよ。」

鈴京は思った。
この男は本気で自分が皇帝の足を引っ張っていると思っている。
たしかに、宮廷内の権力争いや国家の存亡を決するような大胆な決断は不得手であるかもしれない。
しかし、文化、政治、軍事、武芸、人柄のすべてが優れ、さらに勤勉で休まず忠誠心が厚いという李憲の貢献は非常に大きい。
おそらく、大きな事件の際に存在感を示す類の人間ではなく平時の内政や、戦場の指揮等で実力を示す人物なのだろう。
歴史には名が残らないが、政治を行なって行くうえではなくてはならない人材である。

しかし、そんな事を言って変に自信を付けられても面白くないため話題を変えて言った。
「李憲。そういえばこの戦でお前が目指すものって何だ?突厥がしばらく略奪に来ないように打撃を与えるのが目的なのは分かったが、どこまで行けば打撃を与えられたって言えるんだ?」

それに対して李憲は言った。
「突厥をどこまで叩けば良いかについては悠基様からは明確な指示はございません。ですが、個人的な目標はあります。突厥の王を討ち取ることです。」

それを聞いて鈴京は笑みを浮かべた。
そして言った。
「案外大胆な奴だな。突厥の王が討ち取られたなんて話は聞いた事がないぞ。」

李憲は言った。
「だからこそ面白いと思いませんか?」

李憲と鈴京は意外と相性が良い。
二人はこれから起こる事を想像し自然と気持ちを引き締めたのだった。
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