氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

米田薫

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第45章覚悟

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その後、エマ達は散々お酒を飲まされ後、ニカに通された寝室で2人きりとなっていた。
ゼンは、エマと自らの杯にお酒を注ぐと言った。
「少し疲れたな」

エマは言った。
「そうですね。」

ゼンは言った。
「どうだ結婚式は?」

エマは答えた。
「慣れないことはするものじゃないですね。凄く疲れました。まあいい思い出になったのでいいですが。ただ一点だけ不満があります。」

ゼンは言った。
「何だ?」

エマは言った。
「どうして結婚指輪がないのですか?私はあれに少し憧れがあるんです。母がよく嬉しそうに見せてくれていたので。」

するとゼンは困った様子で言った。
「実は作ってもらったんだ。お前が結婚指輪に憧れているという話は聞いたことがあったからな。だがやめた。俺はお前に、今までの感謝を込めて結婚式をする事にした。だが今後の人生で、俺が死んだ後にまで、お前を縛り付ける事になるのは嫌なんだ。わがままかもしれないが、お前には俺を忘れて自由に楽しく生きて欲しいんだ。そのためのお金や地位の保障の準備についてはニカに相談してある。」

エマは酔っているせいか、少しふらふらして立ち上がると、椅子に座るゼンを見て言った。
「出しなさい」

ゼンは言った。
「何をだ?」

エマは笑顔で言った。
「指輪よ。あげる気はないとか言いながら持って来てるんでしょ。」

ゼンは驚いた様子で言った。
「なんで分かるんだ?」

エマは言った。
「分かるわよ。長い付き合いじゃない。あなただって、私の話を聞いて私に結婚指輪を送ってみたいって憧れてたんでしょ。だから作った。でもさっきみたいな考えがよぎって渡せなくなった。でも諦めきれずに、持って来て、密かに持ってる。」

エマはそのまま白起と向き合いながら、ゼンの上に座って話を続けた。
「本当に面倒くさいわね。珍しい顔立ちと、孤高の性格、戦に負けた事のない天才で、もはや伝説となりつつあるルームの名将。でも人格は歪んでて、そのくせ、繊細で、優しいの。それで私のことを誰よりも愛してくれて、こんなお姫様みたいに扱って、挙句の果てに勝手に引け目を感じて私を遠ざけようとする。」

ゼンはエマの話を静かに聞いていた。
エマはゼンの胸元に手を入れて、中から指輪を取り出した。
そして言った。
「私は最近思うの。どんな運命が待っているかなんてもはや私には関係が無いの。あなたと一緒なら、全て幸せだし、あなたが居なかったら全てが辛いのよ。だからね。私があなたと一緒に居て幸せでないことなんてありえないし、私があなたを忘れて幸せになる事もありえないの。覚えておいて。」

エマは自分でその指輪を薬指に入れた。
想像とは違った形だけど、これはこれで自分達らしくて良いと思った。

エマは言った。
「今の気持ちはどう?」

ゼンは、言った。
「俺は俺を許せない。その事は今も変わらない。だけど、俺もだよ。あんなつらいことがあったのに、今の生活は楽しくてしょうがない。まるで夢の中に居るみたいだ。それはきっとお前のお陰なのだろう。エマ。その指輪を受け取ってくれてありがとう」

ゼンの嬉しそうな顔を見て、酔って自制心が弱くなっているエマは抑えが効かなくなり、ゼンにキスをした。
ゼンも静かにそれに応じた。

そしてしばらくエマ達は情熱的なキスを繰り返した。
しかし、途中でゼンがなにかに気付いたように、私を引き離した。

エマはゼンのぬくもりが恋しくて甘える様に言った。
「どうしてやめるの?もっとしてよ。」

ゼンは焦った様子で言った。
「やめろ。そんな様子で言われると、俺も自制が利かなくなる。だがそろそろ時間だろ。」

しかし、エマは再びキスをして言った。
「時間。何のこと?」

その言葉にゼンは言った。
「そうか。お前は結婚式に関心なさそうだもんな。儀式の内容も知らないのか。」

エマは言った。
「そうよ。今はなにも分からないわ。」

エマはゼンのぬくもりが欲しくて仕方なかったためゼンの言葉を聞かず、ゼンにキスをした。
すると、突然部屋の中に、ニカやサッリ、クラウス、着付けを担当してくれた女性や兵士等、10数人が入ってきた。

エマが驚いていると、サッリが言った。
「軍にいるときははねっかえりの小娘としか思っていなかったが、凄い色気だな。こりゃあ。天下のゼン将軍も骨抜きにされるわけだ。」

クラウスが言った。
「エマ様があんな顔をされるとは人は変わるものですね。」

ニカも言った。
「エマの事は小さい頃から知っているが、なんだか恥ずかしくて直視できないな。」

エマは突然のことで、怒り、殴りかかろうとした。
すると女性が言った。
「癇癪はいけませんよ。淑女のする事ではありません。エマ様はもう少し忍耐を覚えるべきです。」

女性の言葉にエマがひるむと、後ろからゼンがエマを抱きしめて言った。
「結婚式の魔よけの儀式だ。こうやって夫婦の寝室に人間が乱入し、夫婦の悪口を言う。夫婦はそれを笑って聞き流すんだ」

エマは周りの人々をにらみつけて言った。
「この儀式を考えた奴は頭がおかしいわ。あなた達、覚えていなさい。」

するとゼンはエマをお姫様抱っこして言った。
「そんな怖い顔をするな。お前にはいつも笑っていて欲しい。」

そしてゼンはエマを抱えたまま、走り出した。
屋敷を抜け、夜道を進んだ。
なんでも、花嫁を地面に着けずに自宅までつれて帰るらしい。
だがここからゼンの邸宅まではかなりの距離がある。
歩いて行くのは少し難しい。

エマはゼンがどうするつもりなのか不思議に思った。
そしてこの状況は今の自分達が置かれている状況に似ていると思った。
だからエマは、自分自身の意志を示すという意味でも、ゼンに身を委ね、何も考えずにゼンの感触を楽しむ事にした。
エマの薬指にはゼンのくれた指輪がきらりと輝いていたのだった。
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