氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

米田薫

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第35章望まない来客

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クラウスに報告を受けエマは直ぐにニカに会いに行こうとした。
しかし、キキョウの動きは予想よりも早く、エマがニカの元へと旅立つよりも先にゼンの元へとやって来た。

そして直ぐにゼンを尋ねた。
エマはその話を聞き、ゼンが心配でぴったり横に控えていた。
「始めまして。私はキキョウと申します。」

ゼンはキキョウを見るとにらみつけて言った。
「自己紹介などいらない。それよりニカはどうした?」

するとキキョウは平然と答えた。
「ニカ殿は解任されました。今は私が新しいルームの宰相です。」

「ニカが解任だと」
「はい。あの方は、国のことを考えず私利私欲のために数多の悪事をなされていたので当然です。」

「悪事?あいつがか?確かに賄賂は好む男だったがその分、結果は出し続けてきただろう。」

しかし、キキョウは取り付くしまの無い様子で答えた。
「王が決定された事です。あなたに反論する資格はありません。そして今からあなたに命じます。全軍を率いて撤退しなさい。」

ゼンは驚いて言った。
「撤退だと?なぜだ。このまま進軍すれば間違いなく勝てるのだぞ。」

「理由は二つです。まず第一にルームは今は飢謹により国民生活が困窮しています。今は戦より国政に集中すべきでしょう。第2に今後ルームは従来の戦略を変更し義の無い国を討ち義のある国は守るという大義ある国を目指します。民からの信望の厚いカンテルとは同盟を結ぶべきでしょう。」

それに対してゼンは笑いながら答えた。
「これは面白い。確かに素晴らしい戦略だ。お前はさぞいい奴なのだろう。しかし、それと戦は違う。今カンテルを滅ぼせば必ずルームは天下を統一できる。平和になってしまえばそれまでの悪行等全てどうでも良くなるだろう。こんな事も分からないようならお前に戦は無理だ。さっさとニカを呼び戻せ。あいつは感情ではなく現実が見えている男だ。」

これに対してキキョウは自分の策を馬鹿にされて腹を立てたのかゼンを怒鳴りつけた。

「そうか。分かった。ならばお前は解任する。今後は将軍も私が勤める。」

「俺を解任だと」
ゼンは驚き言葉が出ないようだった。

キキョウはさらにたたみかけるように言った。
「まだ人を殺したりないか。この戦闘狂め。捕虜を生き埋めにするなど人間のやる事ではないぞ。全く。ニカは気でも触れたのではないか。こんなどこの馬の骨とも知れぬ男を将軍などにしおって。見た目からして明らかに蛮族のそれではないか。」

エマは我慢の限界だった。
ゼンが大切にしていたものを平気で踏みにじり、ゼンの苦労も知らずにゼンを馬鹿にするこの男が許せなかった。

「あなたに何が分かるのよ」

気付いたらエマはゼンの頬を思いっきりビンタしていた。
キキョウは始め驚いた顔を見せたがすぐに冷たい目に戻り言った。
「宰相たる私に手をあげるとは。死罪だ。殺せ。」

周りの兵士は少し躊躇った様子で刀を握った。
するとゼンが椅子から立ち上がり、頭を下げていった。

「俺が悪かった。あなたの命令にも従う。だからこの女は見逃してくれないか。」

するとキキョウは言った。
「ゼン。まさかそれで謝っているつもりでは無いだろうな」

ゼンはそれを聞くと目を見開き、今度は土下座をして言った。
「この通りだ。許してくれ。」

エマはつらくて、悲しくて白起の事を見ていられなかった。

すると、キキョウは笑みを浮かべて言った。
「ゼンともあろうものが無様だな。荷物を片付けて、すぐにルームに戻れ。」

エマとゼンはキキョウの命令に静かに頷いたのだった。
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