氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

第３０章闇に落ちた朝に

次の朝、エマはいつも通り料理を作っていた。
するとそこにゼンがやって来た。

普段ゼンは厨房には現れない。
そのためエマは驚いて言った。
「どうしたんですか？」

ゼンはエマを抱きしめると言った。
「良かった。大丈夫みたいだな。昨日は大分、激しくしたから体が心配だったんだ。今日は料理は俺がやるからお前はもう少し休め」

ゼンの言葉を受けてエマは自分を大切にしてくれる事に喜びを感じた。
そして体がきつい事は事実だった。

しかしエマは言った。
「大げさですね。大丈夫ですよ」

エマはここで休む事はなんだか恥ずかしかったのである。

「本当か？」
ゼンは再びエマに問いかけた。

しかし、エマが首を縦に振ると、エマが一度決めたら絶対に引かない性格をしている事を知っているため、諦めて言った。
「じゃあ、俺も手伝おう。」

エマはゼンの申し出に少し驚いた。
しかし、エマとしてもなんだかゼンともっと一緒に居て甘えたい気分だったので、ゼンの申し出は嬉しかった。

そこでエマはゼンを抱きしめ返して言った。
「じゃあ、お願いします。一緒にやりましょう」

「よし。始めるか」
ゼンはエマを抱きしめた手を離した。

するとエマは言った。
「もう一回だけ。抱きしめてください」

ゼンはエマの言葉に応じてエマを再び抱きしめた。
そしてそれが終わると２人で料理を作り始めた。

ゼンは言った。
「今日は何を作るんだ？」

エマは言った。
「始めて作った料理と同じ料理です。」

ゼンは言った。
「なぜだ？あれは簡単すぎてつまらないと言って最近は作らなかったのに。」

するとエマは言った。
「始めて作ったときは、ただ職務を全うしあなたを支える事だけを考えてきました。でも今は少し違います。あなたは大罪を犯し、私はあなたを愛し、罪を共に背負って生き続けることを選びました。だからこの料理は私にとっての所信表明です。私はこれからも、あなたと共に生きる事を示すために、心機一転、初心に返ってこの料理を作ろうと思ったのです。」

そしてエマは話を続けた。
「私はこれから作る料理全てに、私の愛情全てを注ぎ込むつもりです。そして、それらの料理はいずれあなたの体の一部になり、あなたがどう思おうと、あなたのためを思い、あなたを守り続けるでしょう。覚悟して下さいね」

ゼンはそれを聞くと笑い出した。
「随分と恥ずかしい事を言うんだな」

するとエマはどこか情熱的な目でゼンを見つめて言った。
「もう愛情に歯止めが利かないんです。私はどうやら、自分が思っていたよりずっと、愛が重い女だったようで。」

そしてエマはゼンに近づき口付けをした。
ゼンは驚いて言った。
「何をする？」

エマは笑顔で言った。
「意地悪な事を言うからですよ。そもそも、私をこんな風にしたのはあなたでしょ。」

そしエマは再びゼンに抱きついたのだった。