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第25章怯える夜
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それから徐々にゼンという人間は変わっていった。
まず、生活にこだわりを持つようになった。
食器の配置から始まり、服の汚れ具合、物の位置まで少しでも変わればすぐに気付くのである。
その能力は戦の準備においても十全に発揮され、ゼンは味方や敵のちょっとした変化にもすぐに気付いた。
そしてすばやく最善の手を採った。
エマはそれを見てゼンの戦の仕方を思い出した。
細かい作戦は無く、敵を見つけたらゼンが先頭になって突っ込んで行くというものだ。
そしてその事自体に間違いは無かった。
白起は戦術家ではなく、細かい策略は考えない。
しかし、ゼンが全く準備をしていないといったらそれは間違いだ。
端的に言って、ゼンの一番の関心は、兵をどの様に用いて相手を崩すかではなく、どうすれば味方が最大限の力を発揮できるかなのだ。
そのため細かい作戦は決めず、個々の兵士の判断に委ねる。
その代わりゼンは兵の鍛錬は欠かさない。
事実、戦が近づくにつれて、ゼンの行なう兵の鍛錬は厳しく、長く、そして細かくなって行った。
そしてもう一つ、ゼンはエマと話しているとき急に黙る事が増えた。
そういう場合、エマは必ずその理由を聞いた。
「どうしたの?」
するとゼンは大抵、最初はこう言う。
「何でもない」
しかし、何もないはずは無いためエマが追求すると、語り出すのだ。
ゼンの経験した味方の無惨な死、相手の死に様、そう言った話しが突然頭の中をよぎる事を。
本来、ゼンは人の話を良く聞くほうであり、一方的に話す事は少ない。
しかし、戦場における死の話をする時、ゼンは早口であり、内容を一方的に捲くし立てた。
エマは多分、ゼンがそう言った経験を一人で抱え込むのがつらかったのだと思った。
そしてエマに話すことでゼンが少しでも楽になれば良いと思った。
ある時、ゼンは話の最後に言った。
「戦場における正義は生き残ることだ。それは間違いない。だが時々、思うんだ。生き残ることは正義だが同時に苦しい事だと。死者は何も語らない。死んだ奴の悲しみや、無念、憎しみを背負うのはいつだって生きている人間だ。生きているという事は苦しい事なんだ。だからエマ。俺は死なないからお前も死ぬなよ。俺にはお前の死を背負える自信は無い。」
エマは笑顔で言った。
「分かりました。でも気をつけてくださいね。私は一度死に掛けているんですから。」
そうエマは一度死にかけているのだ。
そして、母に深い悲しみを背負わせてしまったのだろう。
今度は決して大切な人を悲しませたりはしない。
エマは密かに決意を固めたのだった。
まず、生活にこだわりを持つようになった。
食器の配置から始まり、服の汚れ具合、物の位置まで少しでも変わればすぐに気付くのである。
その能力は戦の準備においても十全に発揮され、ゼンは味方や敵のちょっとした変化にもすぐに気付いた。
そしてすばやく最善の手を採った。
エマはそれを見てゼンの戦の仕方を思い出した。
細かい作戦は無く、敵を見つけたらゼンが先頭になって突っ込んで行くというものだ。
そしてその事自体に間違いは無かった。
白起は戦術家ではなく、細かい策略は考えない。
しかし、ゼンが全く準備をしていないといったらそれは間違いだ。
端的に言って、ゼンの一番の関心は、兵をどの様に用いて相手を崩すかではなく、どうすれば味方が最大限の力を発揮できるかなのだ。
そのため細かい作戦は決めず、個々の兵士の判断に委ねる。
その代わりゼンは兵の鍛錬は欠かさない。
事実、戦が近づくにつれて、ゼンの行なう兵の鍛錬は厳しく、長く、そして細かくなって行った。
そしてもう一つ、ゼンはエマと話しているとき急に黙る事が増えた。
そういう場合、エマは必ずその理由を聞いた。
「どうしたの?」
するとゼンは大抵、最初はこう言う。
「何でもない」
しかし、何もないはずは無いためエマが追求すると、語り出すのだ。
ゼンの経験した味方の無惨な死、相手の死に様、そう言った話しが突然頭の中をよぎる事を。
本来、ゼンは人の話を良く聞くほうであり、一方的に話す事は少ない。
しかし、戦場における死の話をする時、ゼンは早口であり、内容を一方的に捲くし立てた。
エマは多分、ゼンがそう言った経験を一人で抱え込むのがつらかったのだと思った。
そしてエマに話すことでゼンが少しでも楽になれば良いと思った。
ある時、ゼンは話の最後に言った。
「戦場における正義は生き残ることだ。それは間違いない。だが時々、思うんだ。生き残ることは正義だが同時に苦しい事だと。死者は何も語らない。死んだ奴の悲しみや、無念、憎しみを背負うのはいつだって生きている人間だ。生きているという事は苦しい事なんだ。だからエマ。俺は死なないからお前も死ぬなよ。俺にはお前の死を背負える自信は無い。」
エマは笑顔で言った。
「分かりました。でも気をつけてくださいね。私は一度死に掛けているんですから。」
そうエマは一度死にかけているのだ。
そして、母に深い悲しみを背負わせてしまったのだろう。
今度は決して大切な人を悲しませたりはしない。
エマは密かに決意を固めたのだった。
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