氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

米田薫

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第23章星に誓う

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一連の出来事でゼンに心境の変化があったのか、ゼンはエマに仕事を任せるだけでなく、ゼン以外の人間と交流する事も許すようになった。
エマは兵達からゼンの愛人と思われているらしいので、最初は兵士達から冷たい態度を取られていたが、何度も粘り強く交流を続ける内に彼らは心を開いてくれるようになった。
そして、兵士達はゼンには言いずらかった不満や要望を私に教えてくれるようになったためエマがそれをゼンに伝える事で、軍の雰囲気や士気は目に見えて向上した。

そんなある日。
仕事を終えて、ゼンの陣営に戻るとゼンから声をかけられた。
「少し外に出ないか?」

エマはゼンの珍しい提案に驚いたが断る理由も無いため頷いた。
そして2人で陣営の外をしばらく歩き、広い野原にやってきた。
「見てみろ。星が綺麗だろ」
ゼンは空を指差した。

「本当ですね」
エマは、素晴らしい星空に驚いた。
戦場は都市とは異なり明かりが無いため星が綺麗に見える。

「信じられないかも知れないが、俺は星を見るのが好きなんだ。小さい頃は良く母と共にこうやって空を見上げていた。」

「確かに意外ですね」

「そうだろ。最近は全く見なくなっていたからな。それだけ余裕が無かったんだろう。それが今日はなんだか星を見たい気分になった。お前のお陰だな」

エマはゼンの言葉を聞いてなんともいえない誇らしい気持ちになった。
「いいえ。私も好きでやっているので」

するとゼンはゆっくりと語りだした。
「お前と居るとなんだか気が安らぐ。多分お前がどこか異質だからだろう。俺もここでは部外者だからな」

ゼンはここから遥と遠いところにある東の方の島国出身の母から生まれている。
そのため見た目からして他の人々とは大きく異なっていた。

「昔は大分苦労した。なにせこの見た目だったからな。差別や迫害は日常茶飯事だった。父は居なかったから誰も守ってくれる人は居なかった。」

どこの時代、どこの国でも他と違う者は叩かれる。
ましてや、見た目という誰から見ても明らかな部分が違うことから来る差別は並大抵なものではない。
だからゼンはきっと凄く苦労したのだろう。

「それでも、母を生かすために戦にでて必死に戦った。そしたら運良く、魏冄という男に見出されて将軍になれた。だがそこからも苦難の連続だ。他人からの嫉妬や、憎悪を一身に受けることになったし、何より戦場は自分が死ぬか相手が死ぬか選ぶ場所だ。ずっと居ると気が狂いそうになるし、いくら手柄を上げても貯まって行くのは他人を殺したという事実だけだ。」

エマはそれを聞いて自分がゼンを放っておけないのはゼンのこういう部分を感じていたからだと思った。
なんだかエマとゼンはかぶるのだ。
だからゼンはエマに対して心を開いたのだろう。

「ところが戦に明け暮れ、気付いたら、俺の母は死んでいた。俺は思ったよ。俺は一体何のために生まれたのだろうとな。」

「なあ。エマ。俺はなんのために生まれたんだ」

ゼンは唐突にエマに問いかけた。

エマはその問いかけに少し考えてから答えた。
「それを決めるのは私ではなくあなたです。あなたならきっと見つけられますよ。」

それを聞くとゼンは笑顔で言った。
「では、俺が生きる意味を見つけるのを手伝ってくれないか?その代わり俺の全てをお前にやろう」

エマはこの問いかけを断るべきとも思った。
ゼンにこれ以上入れ込むのは補佐役として正しい態度ではない。
でもゼンの笑顔を見ていたら、その顔を守りたくて仕方なくなって断るなんて事は無理だった。

だからエマは言った。
「私で良かったら喜んで」

(もしかしたらこれは愛の告白だったのかもしれない。)
エマがそれに気付いたのはもう少し後の事だったのだった。
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