氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

第２１章副将軍とエマ（中篇）

それからしばらくして、エマがゼンの陣営で片づけをしていると、外から大きな物音が聞こえた。
エマは不思議に思い、付近を歩いていた兵士に問いかけた。
「何かあったの？」

兵士は言った。
「大変ですよ。なんでもゼン将軍がサッリ様を処罰されるそうです。」

その言葉を聞いてエマは頭を抱えた。
おそらくエマのせいだろう。
サッリがゼンの居ない隙にエマに会った事がばれたのだ。

サッリがやったことは事実である。
エマにサッリを救う理由は無い。
だがエマがこの様なことでゼンがその手を汚すことになるのは嫌だった。

そこでエマは陣営を飛び出すと、兵たちの話を聞き、ゼンの元へ向かった。
エマが着くと、ゼンはちょうどサッリを斬ろうとしていた。

「やめて」
エマは走ると、ゼンとサッリの間に飛び込んだ。

ゼンは言った。
「どういうつもりだ。」

エマは言った。
「彼がやったことは事実です。ですが、私は怒っていません。どうか寛大な処置をお願いします」

ゼンは言った。
「ここでは俺が規則だ。俺はこいつを殺したいだからどけ」

エマはどくわけには行かなかった。
なぜならゼンという男は人を殺した後必ず深く後悔するからだ。
エマは自らのためにゼンが苦しむの事が嫌だった。

そこでエマは言った。
「分かりました。それならサッリを殺す前に、私を殺して下さい」

ゼンはエマの言葉を聞くとエマをにらみつけて言った。
「本気か？」

エマは答えた。
「はい。本気です」

するとゼンは悲しげな表情で言った。
「そうか。俺はてっきりこの男が、お前を強引に口説こうとしたのだと思っていた。でも違ったのだな。お前はサッリに惚れていたのか」

「はあ？」
エマは思わず汚い言葉を使ってしまった。

当然である。
エマがこんな行動を取ったのはゼンのためである。
断じてサッリのためではない。
しかし、本質的に自分に自身のないゼンはそんな事にも気付けないのだ。

エマは頭に血が上った。
そして興奮状態のまま叫んだ。
「そんな訳無いでしょ。私はね。私のためにあなたの手を汚したくないの。私のせいであなたを傷つけたくないのよ。」

そしてエマは呆然とするゼンの胸倉を掴むと、背伸びをして、ゼンに口づけをした。
しばら口づけをした後、唇を離すとエマは言った。
「これ、私の初めてだから。これが私の答えよ」

ゼンは返事もせず呆然としていた。
エマは今更になって自分のした事に気付いた。

そして驚いた。
（私はゼンの事が好きなんだろうか？）
頭の中でそのような思いが巡り耐えられなくなった。

そして思った。
（きっともうサッリは大丈夫だ。取り敢えず逃げよう。）
そしてエマはそのまま走って、陣営に戻ったのだった。