氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

米田薫

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第16章大きな戦

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さきほどのクーデターの成功によりニカは強大な権力を握るようになった。
そのニカがついに決定したのが、カンテルの討伐である。
カンテルは南方の大国であり、北方の大国でエマ達が帰属しているルーム帝国と2強をなしている。
もっともカンテルは軍事大国でありルームはカンテルに勝利した事がない。
しかし、自分の権力をさらに絶対的なものとしたいニカとしては叩きたい相手であった。

そしてニカはゼンに言った。
「ゼン。戦だ。カンテルを叩くぞ。」

しかしゼンは首を横に振った。
「無理だ。他を当たれ。」

ニカはゼンの武勇を絶対的に信頼していたためゼンの返答に驚いて言った。
「お前でも厳しいのか?」

するとゼンは頷いた。
「そりゃそうだ。カンテルは兵も強いし、数も多い。普通にやったら勝負にもならない」

しかし、ニカは諦めきれずに言った。
「何とかならないのか?」

するとゼンは笑みを浮かべて言った。
「策ならあるぞ。兵を60万よこせ。それだけあれば、相手がカンテルといえど滅ぼせるだろう。」

ニカはゼンの提案に躊躇った。
なぜなら60万はルームが動員できる兵力の最大であるためである。
よってゼンの60万を預ければ国防は大きく手薄となる。
また、ゼンが反乱を起こせばニカはなす術なく敗れるだろう。
つまりゼンに60万の兵力を預ける事は凄く危険な賭けであるといえた。

「こちらお茶です。」
ニカがそんな事を考えているとエマがお茶を持ってきた。

ニカはエマをじっと見つめた。
エマは不思議そうな顔で言った。
「どうしたのですか?」

ニカは言った。
「そうか。お前が居るな。」

そして、ニカは決断した。
「良いだろう。ただし、条件が二つある。」

ゼンは言った。
「何だ?」

ニカは答えた。
「まず戦に負けないこと。次にエマを連れて行くことだ。」

するとゼンは渋い顔をした。
「一つ目は問題ない。俺は一度だって負けたことがないのだから。だが二つ目は無理だ。こいつを戦場に連れて行くことなど出来ない。」

その言葉にエマが言った。
「なぜですか? 私が足手まといだとでも」

ゼンは言った。
「そうじゃない。戦場は危険だ。お前にもしもの事があったら俺はどうしたら良い?」

エマは言った。
「それは私も同じです。私の見ていない所で死なれては困ります。」

二人の議論が平行線なのを見てニカが言った。
「エマはお前のお目付け役だ。裏切りの防止もあるが、お前が大きな戦で精神を磨耗する事を防ぐ意味もある。俺は相当なリスクをとるんだ。それぐらいの譲歩しろよ。」

ゼンは言った。
「分かった。だが戦場は危険だ。俺の言う事を聞けよ。」

エマはゼンの言葉に笑みを浮かべた。
「はい。分かりました。」

そこからは大変だった。
ニカは度々王に面会して説得し、他の貴族たちにも承諾を得た。
時には賄賂や恫喝と言った汚い手段も使った。
そして、ついに60万の兵力を動員する事に成功したのだった。
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