氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

第１４章料理

エマはお忍びでニカの邸宅を訪れていた。
ニカはエマを迎えると渋い顔で言った。
「なんの用だ？　宰相は暇ではないのだが。」

するとエマは言った。
「私に料理を教えてください。」

エマの言葉にニカはため息をついた。
「どうしてだ？」

エマは言った。
「ゼンは毒殺を恐れて他者の作った料理を食べません。ですがあんな食生活をしていたらいつかおかしくなります。ですから私が作ろうと思いまして。」

エマの言葉にニカは言った。
「お前が作ったものだったらゼンは食べるのか？」

ニカの言葉にエマは言った。
「毒殺の恐れが無いと感じたら食べると思います。」

ニカはエマの言葉に少し考える様子を見せた。
そして言った。
「良いだろう。お前が出来そうな料理を教えてやる。いきなり一人で出来るようにはならないからまずは一緒に作ってあいつに持って行け。」

エマはニカの言葉に頷いた。
そして二人は料理の設備を使い、特別な手順で食材に毒が混入しないよう、水などにも注意しながら料理を始めた。
その上で、食材の選択や調理の仕方を工夫し、極力美味しそうなものを作った。
そして水餃子と野菜炒めが完成した。

エマは味見して言った。
「美味しいですね。冷めない内に持っていきます。」

そしてエマは料理を持つと、急いで、ゼンの屋敷に向かった。
ゼンはエマの様子を見ると驚いた様子で言った。
「どういうつもりだ？」

それに対してエマは言った。
「見ての通りです。料理を作ってきました。」

するとゼンは恐ろしい剣幕で言った。
「なんのつもりだ？俺はいらないと言っただろう。」

しかしエマはゼンの迫力に屈さず言った。
「毒が混入しないよう、あなたのやり方に従って細心の注意を払いました。私自身が毒を混ぜるような人間でないことはあなただって分かっているはずです。」

ゼンは言った。
「余計なお世話だ。こういう干渉は不愉快だ。俺のことは放っておいてくれ」

エマにはゼンの言葉に驚かなかった。
なぜならエマは昔の自分も多分同じ事を言うはずだと考えたためである。

そしてエマは笑顔で言った。
「それなら構いませんよ。私が全部一人で食べますから」

ゼンは驚いた様子で言った。
「その量を一人で食べるのか」

エマはゼンの言葉を無視して料理を机に置き、手を合わせるといった。
「凄く美味しそうですね。いただきます。」

そしてエマは料理を食べ始めた。
その料理はたしかに美味しかった。
ゼンの料理とは比べるまでもない。
しかし、さすがに、ゼンの分まで全て食べきることは難しく、段々エマは少し苦しそうな様子だった。

ゼンはそれを見て呆れた様子で言った。
「おい。さすがにそんなに食べきれないんじゃないか？」

エマは言った。
「平気ですよ。だって凄く美味しいですから。」

ゼンはエマの事をただじっと見ていた。
エマはゼンが見ている以上、引く事は出来ないと思った。
エマは頭の中で、（美味しい、美味しい）と自分に言い聞かせながら食事を取り続けた。

ゼンはそんなエマを見て不思議そうに言った。
「どうしてそこまで必死になる。たかが食事だろ」

エマは笑顔で言った。
「食べるという事は生きるという事だからです」

エマはむせそうになり、慌てて水を飲んだ。
するとその様子を見て、ゼンが笑い出した。
「お前は本当に面白いな。なんだか警戒していたのが馬鹿らしくなって来た。」

そしてエマの皿をとると言った。
「残りは俺に食わせろ。さすがにお前がここまで食べているんだ。毒が入っている事もないだろう」

「分かりました。」
ゼンは結局残りを全て食べてしまった。

エマは空になった皿を見て言った。
「美味しかったですか？幸せな気持ちになりませんか？」

ゼンは目を合わせずに言った。
「さあな。だが料理を作ってくれた事には感謝する。」

そしてゼンは軍議があると言って出て行った。

「料理とは案外面白いかもしれませんね」
エマは空になった食器を眺めながら静かにそう呟いたのだった。