上 下
13 / 48

第13章食事

しおりを挟む
ある日、エマはゼンに言った。
「あなたは一体いつ食事をされているんですか? 一緒に暮らし始めてしばらく経ちますがあなたが食事を食べている所を見たことがありません。」

するとゼンは言った。
「俺の食事か?一日一食だ。早朝に食べることが多いが深夜になることもある。料理も自分でやってるぞ」

その言葉にエマは答えた。
「では明日は私もご一緒してよろしいでしょうか。」

「良いぞ」
ゼンはうなずいた。

しかし次の日、エマは自らの発言を後悔した。
ゼンの食事量はまず、エマが思ったよりもずっと少なかった。
そして信じられない程まずい。
もともとエマは食事に関心が強い方ではないがそれでも育ちが良くそれなりに良い物を食べて来ていた。
そのためゼンの作った食事に対する不満は大きかった。

さらに、エマを不快にさせたのはゼンの食べ方である。
ゼンはそのまずい食事を、一定の速度で機械的に口に放り込む。
まるで機械に油を注入するかのような行為だ。

エマはその様子を見て自分が倒れる直前の頃を思い出した。
仕事で余裕がなくなると徐々に、食欲が無くなって、最後の頃は一体いつ食事をしたのか思い出せない事も珍しくなかった。
働きすぎで視野が狭くなり、食事という生きるために基本的な行為にさえ注意を払う事が出来なくなっていたのだ。
エマはゼンがあの頃の自分と一緒であると感じた。

エマはさらに、母が自分の体調を気遣ってくれていただろうから、色々注意もしてくれたはずだと考えた。
しかし、エマ自身はその事を全く覚えていない。
おそらく自分が追い詰められている事にすら気付いていなかった。
追い詰められている人間とはそういうものなのだろう。

エマはそこでゼンの食事を何とかすべきであると決意をした。
そして言った。
「今度からは私が食事を作ります。よろしいですか」

するとゼンは少し考える様子を見せた。
そして言った。
「駄目だ。人が作った食事など食べられない」

エマは食い下がった。
「私が信用できないと言うんですか?」

ゼンは厳しい目で言った。
「そういうわけではない。だが、食事は駄目だ。」

エマはなおも諦めずにゼンを説得しようとした。
するとゼンは吐き捨てるように言った。
「もうこの話は良いだろ。俺は忙しいんだ」

そしてゼンは食卓を出て行った。

「放っておく事はできませんね。」
エマは思わずその様に呟いたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

この度、青帝陛下の番になりまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

マイナス転生〜国一番の醜女、実は敵国の天女でした!?〜

塔野明里
恋愛
 この国では美しさの基準が明確に決まっている。波打つような金髪と青い瞳、そして豊満な体。  日本人として生きていた前世の記憶を持つ私、リコリス・バーミリオンは漆黒の髪と深紅の瞳を持った国一番の醜女。のはずだった。  国が戦に敗け、敵国の将軍への献上品にされた私を待っていたのは、まるで天女のような扱いと将軍様からの溺愛でした!? 改訂版です。書き直しと加筆をしました。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

処理中です...