氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

米田薫

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第13章食事

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ある日、エマはゼンに言った。
「あなたは一体いつ食事をされているんですか? 一緒に暮らし始めてしばらく経ちますがあなたが食事を食べている所を見たことがありません。」

するとゼンは言った。
「俺の食事か?一日一食だ。早朝に食べることが多いが深夜になることもある。料理も自分でやってるぞ」

その言葉にエマは答えた。
「では明日は私もご一緒してよろしいでしょうか。」

「良いぞ」
ゼンはうなずいた。

しかし次の日、エマは自らの発言を後悔した。
ゼンの食事量はまず、エマが思ったよりもずっと少なかった。
そして信じられない程まずい。
もともとエマは食事に関心が強い方ではないがそれでも育ちが良くそれなりに良い物を食べて来ていた。
そのためゼンの作った食事に対する不満は大きかった。

さらに、エマを不快にさせたのはゼンの食べ方である。
ゼンはそのまずい食事を、一定の速度で機械的に口に放り込む。
まるで機械に油を注入するかのような行為だ。

エマはその様子を見て自分が倒れる直前の頃を思い出した。
仕事で余裕がなくなると徐々に、食欲が無くなって、最後の頃は一体いつ食事をしたのか思い出せない事も珍しくなかった。
働きすぎで視野が狭くなり、食事という生きるために基本的な行為にさえ注意を払う事が出来なくなっていたのだ。
エマはゼンがあの頃の自分と一緒であると感じた。

エマはさらに、母が自分の体調を気遣ってくれていただろうから、色々注意もしてくれたはずだと考えた。
しかし、エマ自身はその事を全く覚えていない。
おそらく自分が追い詰められている事にすら気付いていなかった。
追い詰められている人間とはそういうものなのだろう。

エマはそこでゼンの食事を何とかすべきであると決意をした。
そして言った。
「今度からは私が食事を作ります。よろしいですか」

するとゼンは少し考える様子を見せた。
そして言った。
「駄目だ。人が作った食事など食べられない」

エマは食い下がった。
「私が信用できないと言うんですか?」

ゼンは厳しい目で言った。
「そういうわけではない。だが、食事は駄目だ。」

エマはなおも諦めずにゼンを説得しようとした。
するとゼンは吐き捨てるように言った。
「もうこの話は良いだろ。俺は忙しいんだ」

そしてゼンは食卓を出て行った。

「放っておく事はできませんね。」
エマは思わずその様に呟いたのだった。
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