氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

第７章約束

話がひと段落した頃、ゼンは言った。
「お前は本当に面白い人間だな。しかし、どうして俺の世話係なんかになったんだ？　そういう仕事を好むようには見えないんだが。」

するとエマはうつむき加減で言った。
「そうですね。ニカにしてやられました。ですがどんなものでも良いから仕事をしていたかったというのが本音です。」

ゼンは言った。
「なにかあったのか？」

エマは言った。
「無茶な働き方をして倒れ、目覚めたときには生きる意味だった大切な母を失っていました。」

エマの言葉を聞くとゼンは複雑な表情を浮かべた。
その様子を見てエマは言った。
「気にしないで下さい。もう乗り越えました。」

するとゼンは静かに言った。
「お前は偉いな。乗り越える事は簡単じゃなかったはずだ。」


エマはゼンの言葉を聞いて言った。
「あなたも私と同じなのですか?私には今の言葉が凄く重く聞こえました。それは経験したものにしか出せない重みです。」

しかし、ゼンは首を横に振った。
「馬鹿な事を言うなよ。俺はしょせん人を殺す道具だ。まっすぐで立派なあんたとは違う」

するとエマは強い口調で言った。
「その言い方はやめなさい。私はあなたの生き方に共感しました。あなたが道具なら私も道具になってしまいます。」

エマの態度にゼンは笑い出した。
「お前は本当に面白いな。」

そしてゼンはエマに言った。
「そういう事なら働いてもらおうかな。特にやって欲しい事はないが、お前が居ると退屈はしなそうだ。」

その言葉にエマは目を輝かせた。
「良かったです。やはり働くことは楽しいですから。」

するとゼンは控えめな声で言った。
「ちなみに俺と結婚する気はあるか？」

ゼンの言葉にエマは首を傾げて言った。
「何か言いましたか？　いきなり声が小さくなったので聞こえませんでした。」

ゼンは苦笑いをして言った。
「忘れてくれ。一時の気の迷いだ。それよりもお前の部屋に案内するよ。古い邸宅を買い取ったんだが無駄に空き室が多くて困っていたんだ。」

そしてゼンはエマの荷物を持つと、エマを部屋まで案内したのだった。