ヒノキの棒と布の服

とめきち

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第四十八話 帰還 その②

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 さて、台風のさわぎも過ぎて、天気が落ち着くといいですね。
 気分があがったり下がったり、忙しいです。
 みなさん、身体に気をつけて、元気に夏を越してください。

☆★☆★★☆★◆▼★▽

 結局通り雨は夜中まで続いて、ぜんぜん通り雨じゃなかった。
 しょうがなく、俺たちは小屋の中で寝てしまった。
 王都を出て、いくらも進んでいないのに、やっかいなこった。
「どうした?ティリス。」
 夜半、外はしとしとと雨がまだ降っている。
 夕方程ではないにしろ、雨は一向に止まない。

「気配が…」
「気配?」
 そう言ったとたんぞわわわと、背筋に冷たいものが走る。
「なにさまっ!」
 アリスティアが、杖をもって立ちあがった。
 あんた今寝てはったんちゃうの?
 聖女パねえなあ。


 夜の街道沿いに、ぽつりぽつりと白い影が浮かぶ。


「ああ、逝きそびれて迷ったのか。」
「そうですね、迷った…」
「では、上に送り届けてやろう。」
「「はい。」」
 ちぇっ、ラルの野郎グースカハチスカ寝てやがる。

「聖!」
「淨!」

 二人の聖女が声を揃えると、白い光の輪が広がって行く。
 その光に触れた影は、すうっと上空を目指して舞い上がってゆく。
「どうか安らかに。」
「オシリスさまのもとへ。」

 聖女の聖女たる由縁である。

 何はさておき、レジオの氾濫で逝かされた魂は、今宵オシリス女神のもとに召された。
 上空には両手を広げたオシリス女神の姿が、いつまでも浮かんでいた。

「へっくしょい。」
 ラルは寒くなったのか、くしゃみをした。
「あらまあ。」
 ティリスは、やさしく毛布をかけた。
「さて、寝るか。」
「「はい。」」
 土魔法で作ったベッドに、革袋からウサギの毛皮を一杯出して、その上に寝る。
 冬とは言え、亜熱帯の夜は二〇℃前後あるので、毛布でもあればしのげる。

 一か所に三人固まって寝ればあたたかいし。
 雨降りの夜は、そんな風に過ぎていった。

 雨に負けないように、ガンガン硬化をかけた小屋は、その後旅人を何度も救ったらしい。
「じゃあ壁にオシリスの紋章でも刻んでおくか。」
「あら、できるの?」
 ティリスは、不思議そうに首をひねる。
「そんなもん、簡単だわ。こういうのも土ボコの応用なんだぞ。」
「へえ。」
「上下の土移動を、横向きに使うだけだ。」
 ティリスはわかったようなわからんような、変な顔をしている。

「何事も考え方次第と言うわけですね。」
 アリスティアは、納得したようにうなずいた。
 わかっているのかね?
「思い込みってやつは、なかなか書き換えできないものだよ。」
「そうですね。」
 小屋の壁の上に、オシリス女神の紋章を刻み、内部の壁にオシリスの女神像を飾る。
 まあ、三〇センチ程度の大きさだ。
 その下に、お供えの台をつけて完成。
「よしできた。いい感じだな。」
「そうですわね。」
「ラル、馬車にロバをつなげ、出かけるぞ。」

「ガッテンガッテンしょ~ち!」
 だからおまいはどこの青影だよ。

 俺たちがレジオの西門に到着すると、軽快な槌音が迎えてくれた。
 門番は、ゴルテスさんの連れてきた、国軍の歩兵たちだ。
「ごくろうさん。」
「はっ!伯爵様!」
「くすぐったいね。」
「まあ、慣れですわね。」
「そうそう。」
「ちぇっ、言いたいこと言ってら。」

 ロバの馬車は、そのまま東門を目指す。
 広いメインストリートは、幅が五〇メートルほどあって、両脇に少し段差をつけて、馬車道と歩道を分けている。
「少し戻ってきているんだな。」
「そうですね、みんな自分のお家を修理したり、活発に活動していますね。」
「そりゃあ、自分の住むところだもの。」
 人間ってたくましいよな、なにがあっても立ち上がろうと努力する。
 苦しくても、歯を食いしばって耐える。

 東門前は、地竜が暴れたところが、山積みの石材で埋もれていた。
「あ~あ、こりゃあひどいなあ。」
「人手がないですからねえ。」
「どれ、少しはどけてやろうか。」
 俺は、馬車から降りながら言う。
「どうなさるんですか?」
 アリスティアは、首をかしげて聞いた。
「うん、道のところは広くしてやろうと思ってさ。」
 道に山積みで、邪魔くさいんだよ。

「レビテーション」
 精霊たちはやはりたくさんやってきて、俺の手助けをしてくれる。
 大小さまざまな石が、ふよふよと浮かんで道の両脇に運ばれていく。
「ははあ、これは便利ですね。」
 ティリスが、感心したようにうなずく。
「オシリス女神さまの下さった魔法はすばらしいですわ。」
 アリスティアは、目を輝かせる。

「グラビティコントロール。」
 アリスティアの目の前の巨石がふわりと浮かんだ。
「これは?」
「岩の重みをなくして浮かしたのだ、ほら、こうして動かせる。」
 俺が指先で軽く押すと、岩はゆっくりと動き出した。
「まあ!」
「お屋形さま!あたしもやってみたい。」
「いいぞ、ほら。」
「うわあ!本当に指だけで動く!」

「ねえちゃんすげえ!」

 みんなで岩をうごかして、東門周辺はきれいに片付いた。

「よし、東門まわりはこれでよい。」
「はい。」
「ラル、でかけるぞ。」
「おう!」
 陽が中点にかかり、オシリス女神の古い祠の前に出た。

「ああ!」
 ティリスが驚いたのは、青龍メルミリアスが涙をこぼしたところの木が、青々と茂っていたからだ。
「すごいですね、ここはただの草地だったのに。」
「ほんとうだ、これはすごいな。」
 少なくとも、祠の周りには一〇メートルを優に超える木が茂っているのだ。
 メルミリアスのいや、龍の生命力と言うものは、いかに強大なものであるか、思い知らされた。
「さて、ここに俺たちの家を建てるぞ。」

「「はあああ?」」

「うん、このマリエナの森を切り開き、レジオの領地を倍にするのだ。」
「まあ。」
「すばらしいですわ。」
「うむ。」


 オシリス女神の祠を背中に背負う立地に、しっかりした館を建てて、前進基地とする。
 そのためにも、森を見渡すこの丘は、格好の場所だろう。
「いくぞ!」
 ごごごごごごごごごご
 土色の精霊が、これまでになく盛大に集まり、俺の周りに渦を巻く。
 精霊が集まれば集まるほど、俺の魔力は増幅され、思った以上の成果を出す。
 土色の精霊、水の精霊、風の精霊、火の精霊…
 ありとあらゆる精霊が集まり、俺の魔力を嵩上げする。

「行け!」

 ぐばあああああああ
 丘の土が一気に舞い上がり、精霊が各々の役目を果たす。
 精霊のひとつひとつが、それぞれに果たすべき役割があるのだ。
 緻密に計算されたように、精霊はあちらにこちらに飛び交い、城を形作ってゆく。
 どおおんん
    どおおんん
       どおおんん

 がしょんがしょんと、複雑に絡み合い、聖女たちが見たこともない城が組み上がっていくのだ。

 これが、普通の土魔法師にはまねのできない、精霊による魔力の嵩上げなのだ。
「お、大きい…」
「美しい…」
 横幅一二〇メートル、奥行き四五メートル、四層構造の六階建て。
 紺色の切妻屋根に白亜の壁。
 四隅には円柱の塔が立ち、両翼に広がる白鳥のようなたたずまい。
 どうも、基本はアゼル=リドー城をお手本にしたようだが、大きさが倍ほどある。
 前面に広がる庭園。
 また城を囲む城壁も、白亜の作り。
 四隅には、物見の塔が立ち、美しい螺旋階段も表に現れて、ひときわ豪華である。

「あ~、魔力が底をついた。」
 へろへろとしりもちをつく。
「お屋形さま!」
「どうだ?アリスティア。」
「はい、大変結構なお住まいと存じます。」
「それはけっこう。」
「お屋形さま!」
「どうだ?ティリス。」

「すごいんだけど、あたしたちどこに住むの?」
「そりゃあ、この城のいちばんいいところさ。」
「このお城が、あたしたちの家なの?」
「そうだよ、今の俺の魔力ギリギリまでしぼり出したからな。」
「あ~、こんなに大きい家なんて、どうしていいかわかんないよ~。」
 ビンボくさい聖女である。(キートン山田風に。)

 正面中央に入り口がある。

「ほ、ほえ~。」
 ラルは、玄関前で上を向いて声を出した。
 とりあえず、居間に向かう。
 暖炉は建物中央にあり、前後の部屋を暖めるようにできている。
 正方形のタイルがこれでもかと敷かれているが、まだラグもない。
「しょうがないなあ。」
 俺は、ウサギの皮を中央に敷いて、ソファを配置した。
 これでやっとくつろげる。

「兄ちゃん、こんなでかい城に、四人しかいないのかよ。」
「まあな。」
「それでどうやって森を切り開くんだ?」
「まあ、慌てるな。いついつまでにこれだけと切られている仕事じゃあない。のんびりと行こうぜ。」
「そうは言うけどさあ。」
「そのための城づくりだ。まだ、聖堂も作ってないしな、この森に新しい街を作る仕事だ、おもしろそうじゃないか。」
「はあ、俺には重荷にしか見えないよ。」
「ま、お前にはいい斧を買ってやるよ。」
「うえ~。」

 王宮のクソジジイども、俺の金目当てで開発事業を進めさせるつもりなんだよ。
 そう、思惑通りに行けると思うなよ。
 王都のギルドでオークションにかけた、オークキングや地竜がいくらになるか、もう少し様子を見るつもりだ。 
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