ヒノキの棒と布の服

とめきち

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第二〇話 Cクラス冒険者が来た その②

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「今は剣は持ってない。普段は六尺棒かメイスを使ってる。」
 筋肉マンは、俺の腕などをじろじろ見てうなずいた。

「そうか、じゃあちょっとつきあってくれ。」
「?」
 リーダーはアランと言って、四分の一獣人の血が入っているそうだ。
 なるほど、胸板も厚いなあ。
 四チコ分くらいだろうか?
(チコを四人並べたのと同じくらいだ。)

 アランに着いていくと、ギルドの裏手に出た。
 校庭の四〇〇メートルトラックが入るほどの広場になっていて、左横に小さな小屋が立っている。
 運動場のまわりには木が植わっていて、道との境になっている。もちろん塀もあるんだけど。
 なんか成り行きで、ギルドにいたみんなぞろぞろついてくる。

 アランは、その小屋から六尺を二本持ってきた。
「ほれ。」
 と言って一本を投げてくる。
 俺が受け取ると、六尺をくるりと回して言った。
「よし、いっちょうお前の腕を見せてくれ。」

「なんだよまったく!」

 俺は、相手の勝手な展開にかなり憤慨していた。

「勝手な事言うな!」


 俺は六尺を地面にたたきつけて、アランを睨みつけた。


「まあそう言うなよ、俺はたいていの奴は見ただけで大体の強さがわかるし、構えを見れば実力もわかる。」
「それがどうした?」
「だが、なぜかお前にはそれが見えない。」
「…」
 俺は、こぶしを握ったまま、アランを見た。

「おかしいと思ったら、確かめたくてしょうがなくなったんだ。たのむよ、一本だけでいい。」
 アランは片手を上げて、拝むような仕草を見せる。
 そう下手に出られると、怒っているのも大人げない。

「…わかったよ。」

 しぶしぶ六尺を拾う。
 やじ馬は俺たちの周りを囲んでいる。

「では、改めて。」
 すっと六尺を引いたアランは、気合もなく一気に踏みこんできた。
「ふっ!」
「おわ!」
 そういう殺気のない攻撃ってのは、よけるのが難しい。
 とりあえず、横にパリー。
 相手の六尺棒は、地面を打つ。

 そのまま、上から棒を押さえて、一歩左に飛んだ。
「ほお、あれを流すか。」
 ごおっとアランの背中から闘気があふれる。

「そうして殺気を出してくれるとありがたいね。どこに来るか予想がつく。」
 俺は、にやりと口の端が上がるのを感じた。

 ぼそりとつぶやく声をアランは聞こえたのか聞こえないのか、一瞬に三回の攻撃が飛んできた。
 頭、胴、胸に向けての攻撃。
 上下スッ飛ばしで来るので、かわしにくい攻撃だ、いやらしい攻撃とも言う。
 順繰りに下に向けて攻撃されれば避けやすいが。

 かんかんかん!っと軽い音がして、すべてを打ち落とす。
 そう、下向きに落とすのだ。

 なぜか?次の攻撃までにタイムラグが生じるから。
 アランはだんだん面白くなってきた。
 アランの技は、力は強いが師範ほどの速さはない。

 その『師範』ってだれだか知らんが。

 肩の肉がぐっと盛り上がるので、どう動くかがすぐわかる、目で見て流せる程度だ。
 ただ、多彩。
 どこからでも攻撃してくる、しかも膂力がハンパねえ。
 まともに受けると、じいんと手がしびれる。


 長期戦はまずいな。


 おもきしぶちかましがきた。
 盛り上がった肩の筋肉が、俺の胸に当たる。
「おわ~!」
 剣で言えば柄同士で鍔迫り合いである。
 俺はモロに受けて、野次馬に突っ込んだ。

「おもいYO!」
 ヨールが悲鳴を上げている。

 やっぱ、運の悪い奴だ。

「みんな広がれ、これはあぶないYO!」
 俺が手を引っ張り上げたヨールは、周りに声をかけた。
 お前だけだよ。

 よけるだけでは芸がない。
 正面からの攻撃を外に受け流して一歩前に出て、手元の短い握りをアランのあごめがけて突き出してやった。
「うお!」
 真っすぐ後ろにあごを引いて、アランが吠えた。
 ボクシングで言うスゥエーバックの感じ。
 この筋肉ダルマのくせに、小技も効いているのがいやらしい。


 そこで、もう少し追い込んでみる。


「天然理心流三段突き!」

「おう!は!くお!」
「これをかわすかよ!もういっちょう!」

 四つ目の突きは、股間を狙う。
 確実につぶすと言う意思を持って打ちだす突き。
 男ならぜったい嫌って避ける。

「うお!」

 当然アランの握りが下がる。
 下がった切先に、こちらの六尺棒をからめてやる。

 六尺の先を相手の剣先に絡めて、一気に上に引き抜いてやった。




 かいん!と音がして、アランの六尺は跳び上がると、ころりと地面に落ちた。
 俺の六尺棒は、アランの脳天に置かれた。



「はあはあ、やるなあ。」
「道場剣法だよ。」
「いやいや、三段突きの殺気たるやかなりのもんだよ。ルイラ、こいつは強ええな。」
 アランは振り返って、魔法使いに告げた。

「ふふふ、さすがにアランでも息が上がるのね。ユフラテ、土ボコはどんなことができる?」
「ふむ、穴掘りだな。」
「どう?」
「土ボコ。」

 俺の前に三メートル四方の穴があく。
 当然、アランが落ちる。
「どわああああ!」
 アランは悲鳴の帯を引いて消えた。

「どうだ?」
「結構。すごいわね、こんな土魔法。」
「ああ?こんなもん、ただの土ボコだよ。」
 土魔法ですらない。

「へえ、理解しているのね。しかも無詠唱。」
「だって、気持ち悪いじゃないか。」
「なにが?」
「呪文の言葉、気恥ずかしい。」

「わかった。これ、埋められる?」
「もちろん、俺は横に盛り上がった土を移動させる。
「おい!俺が落ちたままだぞ!」
 アランが三メートル下からわめいている。

「いいから、埋めて。」
「ほい。」

「だ~!冗談じゃないっての!」
 アランは、ひいひい言いながらも、カドを伝って登ってきた。
 さすがな筋力だ。

「ちっ」
 ルイラがこぼす。
「『ちっ』ってなんだよ『ちっ』って!」
 アランが喰ってかかるのを、華麗にスルーするルイラ。

 アランはルイラの後ろを着いて回って、グダグダと文句をタレている。
「ちょっとまてよルイラ、『ちっ』ってなんだよ『ちっ』って!」
「ああもう、黙って埋まってればいいのに!」

「なんだよそれ!俺たちゃ夫婦じゃないのかよ!おれはあんたの夫だよ!」
「下に『どっこい』が付くんじゃないの?」

「おっとどっこい・なんでやねん!」

『あ~、夫婦漫才はそのへんでいいわ。」
 俺は、あきれた。

「二属性使えるのか、ほかには?」
「人が大勢いるところでは、手の内バラしたくねえよ。」
 俺は、ルイラの耳元でそっと言った。
 アランが、ギャーギャーわめいているので、ほかの者には聞こえないだろう。
「わかったわ、後日別の場所で。」
「了解。」

「こんどあたしたちが行くときに、一緒にクレオパに行ってくれる?」
「クレオパ?」
「イシュタール第二の都市よ、人口は十万人。あたしたちの本拠地。」
「そこに行くとなにがあるんだ?」
「私の師匠がいる。年を取ったので出無精なのよ。」
「それに会うのが、そんなに重要なのか?」

「ユフラテは、魔法使いとしていい素材を持っている。師匠に付くときっといい魔術師になれると私は思う。」
「本当なのか?」
「潜在的魔力がハンパない。」

 なんか暗い林原めぐみみたいな話し方で、ルイラは説明する。

「だ、だめよユフラテは、忘れ病なんだから。マゼランを出ちゃダメ!」
 チコが横から口を出すが、ルイラは気にもしていない。
「忘れ病なら余計に、いろいろ見たほうがいい。思い出す。」
 どっちもどっちだな、これは先達に相談すべきだろう。

「いま決めることでもないな。」
 俺は低く口にした。
「そう?」
「ああ、たったいま出会ったばかりの人に、決めてもらうような事でもない。」
 俺の強い意志を見て、ルイラは肩をすくめて引くことにしたようだ。


 アランは右手を差し出した。
「俺たちはここに五日ほど居る予定だ、またやろうぜ。」
 俺は握り返しながら笑った。
「ぜひ。」
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