ヒノキの棒と布の服

とめきち

文字の大きさ
上 下
27 / 181

第八話 ばかやろうはお前だ その③

しおりを挟む

 約三〇〇キロはありそうなイノシシは、買い取り係りのコステロによって秤に乗せられた。
「三〇〇と五〇キロだな、銀貨二五枚。」
 すげえ稼ぎだな。
「やったー!」
 ミレーとジャックは小躍りしながらギルドの受付で叫んだ。
「コステロ、安くねえか?」
 俺は少し不満だ。
「ああ?」
「血抜きもしっかりしてきたイノシシだぞ、銀貨が足りないんじゃないか?」
「おい、ユフラテ、俺の査定が気に入らんのか?」
 コステロは、俺の方を向いて声を荒げた。
「ああそのとおりだ、やけに安い。」

 俺がそう言うと、コステロはやけに強気だ。
「ギルドが買わないって選択もあるんだぞ。」
 無精ひげがいやらしく歪む。
 それを見て俺は真正面から目を合わせた。
 そらしたら負けだぜ。
 そのうち、コステロの方が目をそらした。

「そうか…じゃあそうしよう。ギルドにゃ売らねえ。その辺で解体して、たたき売ってくる。」
「ちょ!ちょっと待て!」
 コステロはあわてて手を出した。
「ギルドが冒険者をないがしろにするのなら、俺たちも信用しない。」
「ユフラテ!」
 ジャックが、真っ青になっている。
「ギルドと冒険者はウインウインでなければならないはずだ。それを買いたたく?ギルドマスターの方針か!」
 ジャックが取り成そうとする。
「そう怒るな、ユフラテ。」
「冒険者は命かけてイノシシ取ってきたんだ、お前ら命がけで査定しろ!」
 俺は、コステロを睨みつけて言った。

「なんだ、なんの騒ぎだ?おお!イノシシじゃないか!」
 ギルドマスターが出てきた。
「何の騒ぎもねえ、ギルドは冒険者をばかにしてるのか!」
 俺は、マスターにも聞く。
「そんなことはないぞ。」
 しれっと嘯くマスター。
「じゃあ、なんでこのイノシシが銀貨二五枚なんだよ。」
「ああ?悪くない金じゃないか。相場だぞ。」
「市場で売ってるイノシシ肉の相場から逆算したら、三五枚ないとおかしい。」
「それは組合の儲けも…」
「組合の儲けは、三五枚でも十分出るよな。どれだけハネる気だ!」
 マスターはキョドる。
「バカ言うな。」

「バカはどっちだ!これ以上冒険者をいじめるなら、おれは殿様に直訴するぞ!」
「なんだと!」
 マスターは、顔色をドス黒くしている。
「みんなのいる前で釈明してみろ、これはコステロの独断か、マスターの指示か!」
「…」
「はっきりしろい!」
「わかった、銀貨三五枚で買い取る。」
「そうじゃねえ!マスターの指示なのかって聞いてるんだ!ぶっ殺すぞ!」
 ふだん温厚なユフラテの激高に、まわりはドン引きだ。
 昼間とはいえ、組合員は三〇人くらいはいる。
 ギルドの職員は、見えるだけで二〇人。

 マスターは、自分の不利があからさまになって慌てている。


 受付からマリエが飛んできた。


「ユフラテ、その辺で押さえて!」
 マリエは、必死になって俺の腕をとらえて引っ張る。
「…わかった、じゃあこのイノシシはマリエに卸す。」
「よかった、ありがとうユフラテ。」
「この措置は、俺に対してだけなんだろうな、コステロ。組合全体だったら許さんぞ。」
「…」
 この騒ぎは、すぐに組合の連中に広がった。
 ギルドマスターが、ユフラテに対してひどいピンハネをしていたと、おもしろおかしく語られたんだ。
 まあ、事実だろう。
 やがて、もっと大きな騒動に発展するのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

処理中です...