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第八話 ばかやろうはお前だ その①
しおりを挟むこのウルフ事件の後から、ヨールはウサギ獲りに目覚めて、以後安定した狩りをするようになった。
腰のすわったいい突きが出せるようになったからだ。
ジャックも、攻撃にためらいがなくなった。
レミーは、落ち着いて処理するようになった。
マルソーも、急所へのヒットが多くなった。
実に成長するときは一気にするものだ。
いままでぐずぐずと、いらんことしてきたのが花開いた観がある。
彼らの変化を見て、たまに俺に相談しに来る下級冒険者が増えたのは困った。
今回は、たまたまうまくいったに過ぎない。
ドシロウト連れて、ウルフの集団を討伐できるほど、この世界は甘くない。
つうか、現実は甘くない。
そこのところ履き違えているやつが多いのだ。
ユフラテと狩りに行くと成長するとか、簡単に強くなるとか思ってるやつがいる。
ンなわけあるか!
ダラダラ暮らしてて、強くなるわけないやん。
あいつらは、あいつらなりに悩んで、苦労していたからきっかけを与えたに過ぎない。
それを、なにやらご利益があるみたいに思いこみやがって。
他力本願もたいがいにしろってんだ。
ある程度下地がないと、鍛えても徒労に終わるのは目に見えている。
人にはその人なりの鍛え方がある。
全員一律にどうこうできるもんじゃない。
「新人研修?」
「ええ、ギルドマスターが言い出したの。」
マリエが俺んとこにきて相談している。
「そりゃあ、やればいいんでない?むしろやれ。」
「そう思う?」
「いままでやってなかった方が問題だろう。だから低級冒険者の死亡や廃業が多いんだ。」
「そう…」
対処が悪くて手足を失ったり、最悪命を失う。
ポーションも、回復魔法も意外と高価なもんなんだ。
だから、傷なんてほっとく奴もいる。
そこから腐ってしまうとか、ほんとバカくせえ。
「ジャックやレミーを見ればわかるだろう、剣の使い方も甘いのがたくさんいる。」
「そうね。」
「ただ、俺のところに来る勘違い野郎も多いのは、ギルドの責任だ。」
「?」
マリエは首をかしげて俺を見る。
ショートの金髪が揺れる。
「みんな考えが甘いんだよ。人に頼ったり、へつらったり、ろくなもんじゃねえ。」
俺は、我慢できなくて吐き出した。
「遊んで暮らしたいなら、冒険者なんかになるもんじゃねえ。こりゃあ命がけの商売だ。」
「ギルドだって、やくざの集まりじゃねえんだから、もっと絞めてかからなきゃならん。」
俺はお茶を持ち上げた。
「それでいいなんて思っているトップがアホなんだ。」
ぐびり
「個人の自覚なんて、期待するやつがバカだ。」
真顔で吐き捨てるもんだから、マリエも困惑顔だ。
「それも含めて、新人研修は確かにいいことだと思うよ。」
「じゃあ…」
「俺はやらねえ。」
「ちょ!最後まで言わせてよ。」
「だめだ、マスターが人格者でないと、なに教えても無駄だ。」
マリエは息を吸いこもうとして止まった。
「金にキタネエやつ、人に優しくねえやつ、思いやりのねえやつは、上に立つ資格がねえ。」
「ユフラテ…」
「俺は、組織の悪いところばかり見てきた。だから思う、ひとりひとりが組織を良くすることを思えないと、娑婆は良くならんのだ。」
「ギルドの人間で、受付も含めて、そんな考えの奴がいるか?いねえだろ。」
「だから、上辺だけやっても意味はねえんだ。」
「俺が引っ張ってやれるのは、少人数だけだよ。今の、レミーやジャックが育ったら、二~三人育ててもいいけど。」
「たくさん集めてやるなら、ギルドで相談してやらなきゃな。」
「わかったわ。」
「マリエ、個人的に聞きに来るなら答えるけど、ギルドとしてくるなら、今日だけにしてくれ。」
「…」
「お前はいいやつだけど、上の連中はどうなのかな?」
俺はにやりと笑った。
「あんたは、大人すぎるわ。」
「ほめ言葉と受け取っておくよ。」
俺はギルドを出た。
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