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第一部

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 ゲームとしての知識を持つのに、ここまでわたしが苦戦しているのは、セルニオッド様の関心を引けないことが最大の難点だが、次点の、フィトルーネが誰と恋をするのかが、ほとんど毎回変わることも大きな理由である。

 何回わたしが、五歳からやり直しても、すべてが全く同じ、ということなない。夕食のメニューやメイドの髪型、はてはあまりかかわりのない使用人に図書室に入荷される本。ささやかな部位は毎回変わっているのだが――なぜか、フィトルーネの恋する相手も変わる。唯一、大きく変わる部分はここ。
 ささやかな違いの積み重ねが、大きくなって影響しているのだろうな、とは思うのだけれど……。恋する相手が確定してしまえば、あとはゲームの知識を使って……ということもできるが、誰の手を取るのかの予測ができない。

 セルニオッド様やアメジク様、とあたりをつけて、せっせと好感度をあげ、死にそうになったら助けてもらえる関係性になったとしても、フィトルーネが別の誰かを好きになってしまったら、それもほとんど無意味になる。悪役として死ぬシナリオのわたしは、たとえ悪役にならずとも、同じようなタイミングで、似たことが原因で命を落とす。いわゆる『原作の強制力』というものなのか、はたまた偶然なのかは分からない。明らかに悪役としてのイベントとすり替わっている、と言い切れないことばかりなのだ。たまたま同じタイミングだった、と思ってしまえばそれまでな程度。

 前回、無事に結婚までたどり着けたのは、ひとえに、フィトルーネがセルニオッド様に恋することに賭けて対策を練り、無事にその賭けに勝ったから。

 フィトルーネの相手かも、と狙いをつけてその攻略対象の相手に対策を練っていると、学院の卒業までは無事に生き残ることができる。しかし、外れればそれまで。ほとんどが在学中に死んでしまう。
 故に、フィトルーネの相手が誰であろうと対応できるように、まんべんなく、攻略対象全員と、最低限の交友を持ちたいのだけれど……。

 アルテフと交友を持つか、セルニオッド様の婚約者として彼を立てるか。
 今、どっちの方が重要か……。
 アルテフと接点を持ちながら、その上でセルニオッド様の婚約者であることを強調できればいいのだけど。

 ――あまり長く考え込んでいると、不自然に思われるわね。

 わたしは、ちら、とセルニオッド様の方を見る。セルニオッド様は少しばかりむくれていて――そして、彼ごしに、ハンカチが、わたしの目に映った。

 ……そうだわ!

「……よろしければ、ハンカチを二枚、作ってくださるかしら。なるべく、一目見ておそろいだと分かるような意匠がいいわ。細かい部分はお任せするけれど……、そうね、鳥とか羽根とか、そういうものを入れたら素敵だと思うの」

 「今日は晴れ渡っていて、鳥も元気に飛ぶような日だもの」と付け加える。本当は、鳥のデザインを使ってほしいのは、それが理由ではないのだけど。
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