38 / 61
第一部
38
しおりを挟む
ゲームとしての知識を持つのに、ここまでわたしが苦戦しているのは、セルニオッド様の関心を引けないことが最大の難点だが、次点の、フィトルーネが誰と恋をするのかが、ほとんど毎回変わることも大きな理由である。
何回わたしが、五歳からやり直しても、すべてが全く同じ、ということなない。夕食のメニューやメイドの髪型、はてはあまりかかわりのない使用人に図書室に入荷される本。ささやかな部位は毎回変わっているのだが――なぜか、フィトルーネの恋する相手も変わる。唯一、大きく変わる部分はここ。
ささやかな違いの積み重ねが、大きくなって影響しているのだろうな、とは思うのだけれど……。恋する相手が確定してしまえば、あとはゲームの知識を使って……ということもできるが、誰の手を取るのかの予測ができない。
セルニオッド様やアメジク様、とあたりをつけて、せっせと好感度をあげ、死にそうになったら助けてもらえる関係性になったとしても、フィトルーネが別の誰かを好きになってしまったら、それもほとんど無意味になる。悪役として死ぬシナリオのわたしは、たとえ悪役にならずとも、同じようなタイミングで、似たことが原因で命を落とす。いわゆる『原作の強制力』というものなのか、はたまた偶然なのかは分からない。明らかに悪役としてのイベントとすり替わっている、と言い切れないことばかりなのだ。たまたま同じタイミングだった、と思ってしまえばそれまでな程度。
前回、無事に結婚までたどり着けたのは、ひとえに、フィトルーネがセルニオッド様に恋することに賭けて対策を練り、無事にその賭けに勝ったから。
フィトルーネの相手かも、と狙いをつけてその攻略対象の相手に対策を練っていると、学院の卒業までは無事に生き残ることができる。しかし、外れればそれまで。ほとんどが在学中に死んでしまう。
故に、フィトルーネの相手が誰であろうと対応できるように、まんべんなく、攻略対象全員と、最低限の交友を持ちたいのだけれど……。
アルテフと交友を持つか、セルニオッド様の婚約者として彼を立てるか。
今、どっちの方が重要か……。
アルテフと接点を持ちながら、その上でセルニオッド様の婚約者であることを強調できればいいのだけど。
――あまり長く考え込んでいると、不自然に思われるわね。
わたしは、ちら、とセルニオッド様の方を見る。セルニオッド様は少しばかりむくれていて――そして、彼ごしに、ハンカチが、わたしの目に映った。
……そうだわ!
「……よろしければ、ハンカチを二枚、作ってくださるかしら。なるべく、一目見ておそろいだと分かるような意匠がいいわ。細かい部分はお任せするけれど……、そうね、鳥とか羽根とか、そういうものを入れたら素敵だと思うの」
「今日は晴れ渡っていて、鳥も元気に飛ぶような日だもの」と付け加える。本当は、鳥のデザインを使ってほしいのは、それが理由ではないのだけど。
何回わたしが、五歳からやり直しても、すべてが全く同じ、ということなない。夕食のメニューやメイドの髪型、はてはあまりかかわりのない使用人に図書室に入荷される本。ささやかな部位は毎回変わっているのだが――なぜか、フィトルーネの恋する相手も変わる。唯一、大きく変わる部分はここ。
ささやかな違いの積み重ねが、大きくなって影響しているのだろうな、とは思うのだけれど……。恋する相手が確定してしまえば、あとはゲームの知識を使って……ということもできるが、誰の手を取るのかの予測ができない。
セルニオッド様やアメジク様、とあたりをつけて、せっせと好感度をあげ、死にそうになったら助けてもらえる関係性になったとしても、フィトルーネが別の誰かを好きになってしまったら、それもほとんど無意味になる。悪役として死ぬシナリオのわたしは、たとえ悪役にならずとも、同じようなタイミングで、似たことが原因で命を落とす。いわゆる『原作の強制力』というものなのか、はたまた偶然なのかは分からない。明らかに悪役としてのイベントとすり替わっている、と言い切れないことばかりなのだ。たまたま同じタイミングだった、と思ってしまえばそれまでな程度。
前回、無事に結婚までたどり着けたのは、ひとえに、フィトルーネがセルニオッド様に恋することに賭けて対策を練り、無事にその賭けに勝ったから。
フィトルーネの相手かも、と狙いをつけてその攻略対象の相手に対策を練っていると、学院の卒業までは無事に生き残ることができる。しかし、外れればそれまで。ほとんどが在学中に死んでしまう。
故に、フィトルーネの相手が誰であろうと対応できるように、まんべんなく、攻略対象全員と、最低限の交友を持ちたいのだけれど……。
アルテフと交友を持つか、セルニオッド様の婚約者として彼を立てるか。
今、どっちの方が重要か……。
アルテフと接点を持ちながら、その上でセルニオッド様の婚約者であることを強調できればいいのだけど。
――あまり長く考え込んでいると、不自然に思われるわね。
わたしは、ちら、とセルニオッド様の方を見る。セルニオッド様は少しばかりむくれていて――そして、彼ごしに、ハンカチが、わたしの目に映った。
……そうだわ!
「……よろしければ、ハンカチを二枚、作ってくださるかしら。なるべく、一目見ておそろいだと分かるような意匠がいいわ。細かい部分はお任せするけれど……、そうね、鳥とか羽根とか、そういうものを入れたら素敵だと思うの」
「今日は晴れ渡っていて、鳥も元気に飛ぶような日だもの」と付け加える。本当は、鳥のデザインを使ってほしいのは、それが理由ではないのだけど。
10
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したけど、知らぬ間にバッドエンド回避してました
神村結美
恋愛
クローデット・アルトー公爵令嬢は、お菓子が大好きで、他の令嬢達のように宝石やドレスに興味はない。
5歳の第一王子の婚約者選定のお茶会に参加した時も目的は王子ではなく、お菓子だった。そんな彼女は肌荒れや体型から人々に醜いと思われていた。
お茶会後に、第一王子の婚約者が侯爵令嬢が決まり、クローデットは幼馴染のエルネスト・ジュリオ公爵子息との婚約が決まる。
その後、クローデットは体調を崩して寝込み、目覚めた時には前世の記憶を思い出し、前世でハマった乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生している事に気づく。
でも、クローデットは第一王子の婚約者ではない。
すでにゲームの設定とは違う状況である。それならゲームの事は気にしなくても大丈夫……?
悪役令嬢が気付かない内にバッドエンドを回避していたお話しです。
※少し設定が緩いところがあるかもしれません。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
悪役令嬢は南国で自給自足したい
夕日(夕日凪)
恋愛
侯爵令嬢ビアンカ・シュラットは7歳の誕生日が近づく頃、
前世の記憶を思い出し自分がとある乙女ゲームの悪役令嬢である事に気付く。
このまま進むと国外追放が待っている…!
焦るビアンカだが前世の自分は限界集落と称される離島で自給自足に近い生活をしていた事を思い出し、
「別に国外追放されても自給自足できるんじゃない?どうせなら自然豊かな南国に追放して貰おう!」
と目を輝かせる。
南国に追放されたい令嬢とそれを見守る溺愛執事のお話。
※小説家になろう様でも公開中です。
※ネタバレが苦手な方は最新話まで読んだのちに感想欄をご覧になる事をおススメしております。
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。
ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい!
…確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!?
*小説家になろう様でも投稿しています
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
こな
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる