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第一部

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 スフィカ・カルニル。アメジク・カルニル。双子の兄妹である彼女らは、共に、『アルコルズ・キス』に登場する人物――どころか、アメジク・カルニルにいたっては、攻略対象の一人である。

 しかし、今まで、アメジク様は高等学院に入るまで、そうそう会うこともなく、スフィカ様は幼少期しか関わり合いがない。
 今、ここで、スフィカ様ではなくアメジク様と出会うのは、なかなか珍しい。

 まあ、セルニオッド様やランセルテとの出会いが早まったり、そもそもセルニオッド様が別人になっていたり、そういったことに比べたら、珍しくはあれどイレギュラーではない。以前も、数えるほどではあったが、幼少期に顔を合わせたことはある。

 ……問題は、なぜ、子供時代のアメジク様が、既にスフィア様の格好をしているのか、ということなのだけれど……。

 セルニオッド様の部屋に案内されると、既にお茶会の準備がなされていた。予備があったのか、アメジク様とデネティア様の分もある。
 メイドたちは大変だっただろうな……。子供で、婚約者同士とはいえ、異性であるわたしをセルニオッド様の私室に案内するのであれば、妙な噂が立たないように何人かの使用人は部屋にいないといけないし、それなのに急に人数は増えるし……。

 わたしは、当たり障りなく展開されていく雑談を聞きながら、違和感のある二人をこっそりと観察する。デネティア様も、アメジク様も、今までとはまるで別人のようだ。

 そもそも、アメジク様が女装をするようになるのは、スフィカ様が事故で亡くなられた後のこと。今はまだ、わたしが五歳だから未来の話だし、時系列が狂うことを考えたとしても、スフィカ様が鬼籍に入ったという情報はそもそも聞いていない。

 スフィカ様を失った悲しみに耐えきれなかった彼の母の愛を得るために、スフィカ様の代わりをするようになったアメジク様は、しかし、成長と共にスフィカ様の格好ができなくなる。そのため、一時的に男の格好へと戻る。
 しかし、元より素質があったのか、そういう趣味嗜好を持っていたのか、アメジク様は女装そのものにハマってしまうのだ。

 妹の身代わりに始めたことに楽しさを見出すのは良くないことなのでは、とか、男のくせに、とか、そう言った罪悪感のようなものや、好きなものを否定される苦しみと怒りを抱えて生きていく時期があり、それを肯定してくれたヒロイン、フィトルーネに恋をしていく……という話があるわけなのだが……。今全然、そういう時期じゃないわよね?

 ゲームをプレイした上での感想としては、きっかけさえあれば、スフィカ様が亡くなられなくても女装を始めていた節はあると思う。

 でも、そのきっかけって何……?

 そうやって、アメジク様のことを観察するのに夢中になっていたからだろうか。

「それで――僕とアメジク、スフィカは三つ子の兄妹なの!」

 という、セルニオッド様の爆弾発言に、わたしは思わず、貴族令嬢らしからぬ勢いで、飲んでいた紅茶をむせてしまった。
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