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第一部
08
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結局、お母様の指導はパーティー開始の直前まで続いた。誕生日なのに、何やってるんだろう、わたし。
パーティーが始まってからも、誕生日パーティーを楽しむことはできなかった。どうしても、思考が別の場所へと飛ぶ。
お母様の指導が続くので、ほとんどまともに話を聞くことも出来なくて、詳しい話をお母様から聞くことは出来なかった――というか、そもそも、お母様も、どうしてセルニオッド様がこちらに来る気になったのかは聞いていないらしい。
お母様が聞いていないとなると、本当に、急な決定だったのだろうと思う。事前に通達があったなら、お母様が知らないわけがない。直近で決まって、今日、わたしに知らされたということだ。なんてこと……。
わたしは呆れながらも、少しだけ、違和感に恐怖を覚えていた。セルニオッド様はこんなにも思い付きで行動する人だっただろうか?
それに、お母様が言っていた言葉も気になる。
――母は理由を聞いておりません。ただ、もしかすると、王と王妃の仲が非常によろしいですから、夫婦というものに興味をお持ちになったのかもしれませんね。
わたしはこれを聞いて、思わず嘘だと言いたくなってしまった。
王と王妃が仲良し? そんな馬鹿な。
何度も繰り返したこのレインカルナ王国でも、この世界を『アルコルズ・キス』という物語として描いた世界でも、王と王妃の仲が良かったことなんて、一度もない。
王と王妃は、目立つ程不仲ではないが、典型的な政略結婚だ。仕事仲間という意識の方が強いのではないだろうか、と思わせるほどその関係は乾いている。
側室の中に、王の『お気に入り』と言われる女性がいるのも、余計に王妃との関係があっさりしているのを際立たせるのかもしれない。
――ずっと、そうだった。
でも、ルリィにも聞いてみたが、『今回の』王と王妃は非常に仲がよく、平民にまでその話が届いているという。
この世界は、もう一つの世界と比べて、文明が遅れている。生まれによっては生活水準がさほど変わるようには思えなかったが。
そんな遅れた文明のこちらでは、情報を知りえるのは本や新聞か、噂話のみ。テレビだとか、ネットニュースだとか、そういうものは一切ない。
そんな情報伝達の技術がつたないこの国の中でも『知らない者はいない』と言われるほどの仲睦まじさらしい。となると、よっぽどである。
どうして、こんなことになっているのかしら……。
全く見当が付かない。……もしかして、今まで側室だった『お気に入り』が何かの間違いで正妃になったのだろうか。
いや、でも、彼女は伯爵家出身だったはず。侯爵家を差し置いて正妃になる、ということはなかなか考えにくい。
どうしてこんなことになっているのだろう、と考え込んでいると――。
「――サネア」
お母様の声で一気に現実に戻される。わたしは内心で焦りながらも、できるだけ優雅さを心がけて「なんでしょう」とお母様の方を見上げる。
「王子がお見えになりました」
そう言って笑うお母様。少しだけ、圧がある。誕生日パーティーの主役であるにも関わらず、ぼーっと考えごとをしていたことに怒っている、というよりは、失敗は許さない、という笑みの様だった。
パーティーが始まってからも、誕生日パーティーを楽しむことはできなかった。どうしても、思考が別の場所へと飛ぶ。
お母様の指導が続くので、ほとんどまともに話を聞くことも出来なくて、詳しい話をお母様から聞くことは出来なかった――というか、そもそも、お母様も、どうしてセルニオッド様がこちらに来る気になったのかは聞いていないらしい。
お母様が聞いていないとなると、本当に、急な決定だったのだろうと思う。事前に通達があったなら、お母様が知らないわけがない。直近で決まって、今日、わたしに知らされたということだ。なんてこと……。
わたしは呆れながらも、少しだけ、違和感に恐怖を覚えていた。セルニオッド様はこんなにも思い付きで行動する人だっただろうか?
それに、お母様が言っていた言葉も気になる。
――母は理由を聞いておりません。ただ、もしかすると、王と王妃の仲が非常によろしいですから、夫婦というものに興味をお持ちになったのかもしれませんね。
わたしはこれを聞いて、思わず嘘だと言いたくなってしまった。
王と王妃が仲良し? そんな馬鹿な。
何度も繰り返したこのレインカルナ王国でも、この世界を『アルコルズ・キス』という物語として描いた世界でも、王と王妃の仲が良かったことなんて、一度もない。
王と王妃は、目立つ程不仲ではないが、典型的な政略結婚だ。仕事仲間という意識の方が強いのではないだろうか、と思わせるほどその関係は乾いている。
側室の中に、王の『お気に入り』と言われる女性がいるのも、余計に王妃との関係があっさりしているのを際立たせるのかもしれない。
――ずっと、そうだった。
でも、ルリィにも聞いてみたが、『今回の』王と王妃は非常に仲がよく、平民にまでその話が届いているという。
この世界は、もう一つの世界と比べて、文明が遅れている。生まれによっては生活水準がさほど変わるようには思えなかったが。
そんな遅れた文明のこちらでは、情報を知りえるのは本や新聞か、噂話のみ。テレビだとか、ネットニュースだとか、そういうものは一切ない。
そんな情報伝達の技術がつたないこの国の中でも『知らない者はいない』と言われるほどの仲睦まじさらしい。となると、よっぽどである。
どうして、こんなことになっているのかしら……。
全く見当が付かない。……もしかして、今まで側室だった『お気に入り』が何かの間違いで正妃になったのだろうか。
いや、でも、彼女は伯爵家出身だったはず。侯爵家を差し置いて正妃になる、ということはなかなか考えにくい。
どうしてこんなことになっているのだろう、と考え込んでいると――。
「――サネア」
お母様の声で一気に現実に戻される。わたしは内心で焦りながらも、できるだけ優雅さを心がけて「なんでしょう」とお母様の方を見上げる。
「王子がお見えになりました」
そう言って笑うお母様。少しだけ、圧がある。誕生日パーティーの主役であるにも関わらず、ぼーっと考えごとをしていたことに怒っている、というよりは、失敗は許さない、という笑みの様だった。
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