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第一部

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 『わたくし』という存在が、とある乙女ゲームの悪役令嬢だと知ったのは、二度目の人生でのことだった。

 レインカルナ王国第二王子に婚約破棄を言い渡され、あれよあれよといろいろな冤罪を擦り付けられそのまま死罪となった『わたくし』は、レインカルナ王国ではない、別の世界で目を覚ます。

 赤ん坊になって。

 生活水準はさほど差異のない国だったが、文明が違いすぎて、最初は酷く苦労したものだ。明確な身分差のない国。それでも貧富の差があり、『わたし』はどちらかと言えば裕福な方の生まれで。
 慣れない異文化の中で必死に生きて、ようやく適応できた頃――ちょうど、中学生になった頃のことだ。

 参考書を買いに来た本屋で、『アルコルズ・キス』というタイトルの作品を知る。後々、絶対に忘れることのできなくなるタイトル。そのときは、その作品の漫画の表紙に馴染み深い顔を見かけ、思わず立ち尽くしたものだ。
 乙女ゲーム原作のコミカライズ、と紹介されていた漫画の表紙には、『わたくし』に婚約破棄を言い渡した第二王子のセルニオッド様と、彼の新しい婚約者となるフィトルーネの二人が飾られていた。

 思わず、参考書を買うためのお金で購入。駄目だと分かっていても、買わずにはいられなかったのだ。
 混乱を極め、心臓がうるさいのを無視して、恐るおそる中を見れば、フィトルーネの目線で、セルニオッド様たちとの恋模様が描かれて。そして、『わたくし』――サネア・キシュシーは悪役令嬢として登場していた。

 フィトルーネの視点から見れば、随分と嫌な女になっていたけれど、どれもこれも、身に覚えのある言動ばかりだった。あの女からしたら、『わたくし』はこんな風に見えていたというのね。
 一巻だけで、その先は分からなかったけど、それでもわたしは知っている。まさに『わたくし』が生きてきた世界なのだから。もちろん、『わたくし』目線とヒロインたるフィトルーネの目線では、だいぶ印象の違うものになっているのだろうけれど。

 それでも、どこか気になることがあったのだ。この物語を知れば、わたしが死罪となった真相を知れるのではないか、と。
 まあ、所詮一巻だけで分かるわけもなく。しいて言えば、『わたくし』が嫌な女で、淘汰されるべき悪役だと知れたくらいだろうか。
 続刊を買えれば、あるいは、原作とされる乙女ゲームそのものを入手できれば良かったのだが、そのときの『わたし』の両親は、漫画やゲームといったものを嫌い、徹底的にわたしから取り上げていた。当然、買ったことがばれたその一巻も、没収されてしまったのだった。
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