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第一部

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 『わたくし』の意識は、決まって五歳の誕生日の朝に目覚める。

 装飾の凝った、無駄に大きな窓。絢爛豪華な家具に、天蓋付のベッド。絵に描いたような、歴史ある豪邸の一室。
 目覚めたばかりのわたしには違和感があるけれど、どこか懐かしいその部屋で、今回も『わたくし』は目を覚ました。
 自身の手を見れば、まさしく幼女の手。ふっくらと小さいが、赤ん坊よりはぷくぷくしていない。

 ――わたしはそんな手をきゅ、と握りしめ、今度こそ、うまくやろう、と決意する。

 手を見ていると、開かれた天蓋の向こう側から、声が聞こえてくる。

「あら、サネアお嬢様、もうお目覚めですか?」

 彼女の少し驚いた声を聞くのはもう何度目か。毎回同じなので、こちらも驚いてしまうくらいだ。

「おはよう、ルリィ」

 わたしが微笑むと、彼女もまた、破顔した。青みかかった黒髪を肩につくかつかないかくらいの長さで切りそろえた、女性というよりは少女と言うべき年齢のメイド。
 わたしの世話を主な仕事とする、わたし付のメイドである。

 今日は普段よりもルリィがわたしを起こしに来る時間が早い。誕生日パーティーがあるため、五歳の子供とはいえ、朝から準備が詰まっているのだ。貴族である『わたくし』の誕生日パーティーはそれはもう、豪華なものだ。

 ……豪華な代わりに、とっても準備が大変で。『わたし』の生きる、もう一つの世界の誕生日パーティーが恋しくなるくらいだ。生まれによっては祝ってもらえないこともあるものの、基本的には、夕飯が鉱物になって、ケーキを食べて、プレゼントを一つもらえるくらい。
 朝からめかしこんで、ドレスを着て、大人たちに囲まれるような仰々しいパーティーはしない。

 ……前回は、『病弱なわたし』だったから、病院で誕生日を迎えたため、ご飯はいつも通り入院食。食事制限があったため、豪華ではないけれど、メッセージカードが付いていて、両親もプレゼントを持ってきてくれた。わたしがさみしくないように結構な大きさのぬいぐるみと、飽きないように様々な種類の本をくれたのだ。

 前回のわたしは、愛されていたけれど、長生きはできなかった。病院や家から一人でいることが多く、自由にでかけることはできなくて、『情報収集』はままならなくて。
 愛されてはいたけれど、どことなく、外れだったと思う自分に、嫌気がさす。

「お嬢様、お目覚めならば、着替えてしまいましょう」

 ルリィの言葉に、わたしの意識は現実へと戻ってくる。
 そうだ。もう、『わたし』は死んでしまったのだから。これからの『わたくし』に向き合うしかない。
 わたしが、望む未来を手に入れるまで、きっとこの『繰り返し』は終わらないのだから。
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