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 イタリさんの街案内は、店の中に入る、とかはせず、ただ、あそこには飲食店が、むこうには雑貨屋が、という、淡々とした説明だった。イタリさんらしいと言えばらしい。一度にそんな覚えられないな、と思ったが、何があるかだけ分かればいい、と言われた。
 まあ確かに、欲しい物がある店が存在することを知っているのといないのとでは手間が違う。

 そうやって歩きながら連れてこられたのは、駅のような場所だった。
 駅、といっても、かなり大きく、商業施設なんかが併設されているような、すごく都会な駅。元の国でも、こちらの国に来てからも、わたしは基本的に馬車移動だったから知らなかったけど、どうやらこの世界、汽車のようなものはあるらしい。

 でも、わたしが目を引いたのは、汽車や線路ではなく、ショーウィンドウだ。

「すごい……えっ、これ全部飴細工ですか?」

 ショーウィンドウに並ぶのは、きらきらと輝く、動物や人、植物の形をした飴細工たち。サイズもさることながら、その細かさは思わず目を引く。
 驚くことに、ショーウィンドウの中身は、台座を抜いて全て飴細工のようだった。作るのも凄いが、管理できるのも凄いな。

「ここは国内で一番の老舗の飴屋の本店だ。ちなみにショーウィンドウの中身は季節ごとに変わる」

 ショーウィンドウの向こう側に見える店内には、確かに色とりどりの飴が並んでいる。しかも結構広そう。
 でも、これだけ凄いものが見られるなら、中に入らなくたってつい、この店の前を通りたくなってしまうだろう。というか、季節ごとに変わるなら、次の季節、またここに来たい。

 夢中になって見ていると、隣で笑われたような気配を感じた。

「――気に入ったようなら何よりだ」

 明らかに、はしゃぐ子供を見る大人の声音であったが、ここで反論すると余計に子供っぽいかと思って、お礼を言っておく。実際、たぶんイタリさんの方が年上だと思うし。

「ここは人間と亜人が共存できている象徴のような店だからな。ここが賑わっていると、平和を実感する」

 騎士団、とあるだけあって、やっぱり荒事や戦争に近い場所にいるのかイタリさんが平和、と言うのに、妙な重みを感じた。この店に、よっぽど思入れがあるのだろうか。

「……中に寄っていくか?」

 今日、初めてイタリさんがそんなことを言った。そんなに興味深々で見ていただろうか。……ちょっと恥ずかしい。
 でも、折角なので、中も見たい。
 わたしはイタリさんの提案に、うなずいた。
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