上 下
16 / 42

13

しおりを挟む
 門番をしている男性とイタリさんが何かを話している。門番は人間のようで、ヴェスティエ東語で話すよりは聞き取りにくいものの、いくつか単語を聞き取ることは出来た。確かに東語とはちょっと違うけれど、全くわからないこの世界での母国語よりはずっとマシだ。これなら、予想よりも早く共用語を習得出来るかもしれない。

 ……わたしも最初からこの国に生まれたかったなあ。
 今更そんなことを言ってもどうしようもないのは分かっているが。

「それではまた夜に来る」

 門番との会話が終わったイタリさんはそう言って一行に戻っていた。わたしが荷台から降りたからか、荷物番の人も変わるようだ。
 イタリさんたちが行ってしまうと、門番がわたしに話しかけてきた。

『ここで待っているのもなんてすし、中へどうぞ。お茶などはないので出せませんが、椅子はありますから。まだ夜まで時間はありますし、立ちっぱなしは大変でしょう』

 ……ええと、中に入って待てばいいのかな。お茶はないけど、椅子はある。夜まで長い。……うん、多少は聞き取れる。喋っている長さからしてこんなにシンプルな言い方ではないと思うけど、でも、十分意味を理解出来る。

「あ、ありがとうございます」

 一応お礼を言って見る。でも、門番さんの表情は少し困ったようなものだ。たぶん、お礼の言い方が東語と共用語で違うのだろう。

『あ、ありがと?』

 前の国で使っていた言葉で話してみる。謝る方がずっと多かったから自信がない。なんとなくイントネーションが違う気がするのだ。だから積極的に言うことはなかった。お礼を言うことより謝ることの方が多い、というのもそうなんだけど。

 流石は門番をしているだけあって、隣国であるわたしの国の言葉は分かるらしい。表情が明るくなった。

『いいえ、イタリたってのお願いですから。礼はイタリにしてもらうので、気にしなくて大丈夫です。でも、そうですね……。共用語だと礼は、ありがとう、と発音します』

 最初の方はイタリさんの名前しか聞き取れなかった。けど、後半は分かる。お礼の発音を教えてくれている。

『ア、あり、がと?』

『あ、り、が、と、う』

 分かりやすいようにもう一度、区切る様にして言い聞かせてくれる。……この国の人はいい人ばかりなのか?

『ありガと……ありがとぉ?』

『ううん、惜しいですね』

 ちょっとちがったっぽい。思ったよりも発音が難しいな……。
 わたしは何度も繰り返して、発音を探っていく。門番はそれに付き合ってくれた。

『あり――ありがとう!』

『はい、正解です』

 にっこりと笑う門番。ちゃんと発音出来たらしい。たった一言発音できただけなのに、優しく笑ってくれた。父親や母親だったら、そんなことできて当たり前、どうしてこんなことしか言えないのか、と嘆くことだろう。

 自分が褒められて伸びるタイプだとは思っていなかったけど、でも、馬鹿にされつづけるよりは萎縮しないで学ぶことが出来る。
 相手の使う言語で言葉が通じるってんなにも嬉しいことなんだ、と、わたしは転生してから初めて思ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。 作者のめーめーです! この作品は私の初めての小説なのでおかしいところがあると思いますが優しい目で見ていただけると嬉しいです! 投稿は2日に1回23時投稿で行きたいと思います!!

竜王の加護を持つ公爵令嬢は婚約破棄後、隣国の竜騎士達に溺愛される

海野すじこ
恋愛
この世界で、唯一竜王の加護を持つ公爵令嬢アンジェリーナは、婚約者である王太子から冷遇されていた。 王太子自らアンジェリーナを婚約者にと望んで結ばれた婚約だったはずなのに。 無理矢理王宮に呼び出され、住まわされ、実家に帰ることも許されず...。 冷遇されつつも一人耐えて来たアンジェリーナ。 ある日、宰相に呼び出され婚約破棄が成立した事が告げられる。そして、隣国の竜王国ベルーガへ行く事を命じられ隣国へと旅立つが...。 待っていたのは竜騎士達からの溺愛だった。 竜騎士と竜の加護を持つ公爵令嬢のラブストーリー。

騎士団長のお抱え薬師

衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。 聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。 後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。 なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。 そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。 場所は隣国。 しかもハノンの隣。 迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。 大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。 イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。

悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

柊 来飛
恋愛
 ある日現実世界で車に撥ねられ死んでしまった主人公。    しかし、目が覚めるとそこは好きなゲームの世界で!?  しかもその悪役令嬢になっちゃった!?    困惑する主人公だが、大好きなヒロインのために頑張っていたら、なぜかヒロインの兄に溺愛されちゃって!?    不定期です。趣味で描いてます。  あくまでも創作として、なんでも許せる方のみ、ご覧ください。

転生したら竜王様の番になりました

nao
恋愛
私は転生者です。現在5才。あの日父様に連れられて、王宮をおとずれた私は、竜王様の【番】に認定されました。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

精霊に転生した少女は周りに溺愛される

紅葉
恋愛
ある日親の喧嘩に巻き込まれてしまい、刺されて人生を終わらせてしまった少女がいた 。 それを見た神様は新たな人生を与える 親のことで嫌気を指していた少女は人以外で転生させてくれるようにお願いした。神様はそれを了承して精霊に転生させることにした。 果たしてその少女は新たな精霊としての人生の中で幸せをつかめることができるのか‼️ 初めて書いてみました。気に入ってくれると嬉しいです!!ぜひ気楽に感想書いてください!

処理中です...