言葉の通じない世界に転生した侯爵令嬢は、気が付いたら婚約破棄されて獣人騎士の新しい夫に愛されてました

ゴルゴンゾーラ三国

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「――では、改めまして。自分はヴェスティエ王国の第一騎士団、副団長のコマネと申します。ここにいる全員が第一騎士団の者です。お嬢さんはどちらに向かわれる予定だったのですか?」

 コマネさんが、団長さんに対してとは違う、かしこまった口調でわたしに話しかける。わたしのドレスがなかなかに華美で質のいいものだから、結構なお嬢様であることを察したのかもしれない。

 わたしは家では嫌われ者、というか、腫物扱いをされていたけれど、着るものはしっかりしていた。せめてもの情け、というよりは、わたしがみすぼらしいものを着ているとなにか不都合があるから、だとは思うんだけど。

「わたしはアルシャ・ソルテラ、と言います。あの、助けてくださってありがとうございました。ええと……み、ミステラ、なんとか……えと、そんな感じの場所に行く道中でした」

「――ソルテラ? もしや、ソルテラ侯爵家のことですか?」

「た、たぶん……」

 聞き間違いがなければソルテラではある。少なくとも、わたしが生活してきた中で、他にソルテラという苗字――家名は聞いたことがない。
 でも、侯爵だったとは知らなかった。そんなに偉い貴族だったのか……。そりゃあ、言葉が話せない娘なんて、腫物扱いにもなる。

 信じられない、という様子で、コマネさんは何人かの名前を上げる。それは父親や母親、兄や姉の名前だった。その人たちがいるソルテラ家で間違いないです、とうなずく。

「それなら、自分たちはもう国へ戻るところなので、ソルテラ侯爵家の屋敷まで同行することはできませんが、ミステラヴィスまでなら――」

「いや、こいつは連れて帰る」

 コマネさんの言葉をさえぎるように、団長さんが口を開いた。

「連れて帰るって……ソルテラ家のお嬢さんですよ!?」

「問題ない。ミステラヴィスにこいつを受け入れる用意はないだろうし、仮に行っても同じことの繰り返しだ」

 同じことの繰り返し。その言葉の意味を理解するのに少し時間がかかったが、分かってぞっとする。
 もしかして、さっき襲われたのは、偶然なんかじゃなかったってこと……? 誰かがわたしを殺そうと――いや、誰か、なんて分かり切っている。父親か母親のどちらかだ。いつまでも言葉が通じない上に、婚約破棄ともなれば、そんな娘、邪魔でしかない。

 わたしは手の震えを押さえるように、ぎゅっと強く握りしめた。さっきまでの恐怖が、また、蘇ってきたのだ。
 ――でも。

「心配するな。我が家で保護する。隣国ではあるが、公爵家の庇護下なら、ソルテラ侯爵も簡単に口出しはしないだろう。ましてや、あんなことを起こした、なんて知られたくないはずだろうからな」

 そう、団長さんが言う。
 固い言い方なのに、すごく優しい言葉に聞こえる声だった。
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