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 パーティーから帰ってきて、一番に、わたしの、この世界で父親に当たる人の部屋へと呼ばれた。そこには、母親も同席していて。
 言葉が話せないわたしが、貴族としてどこか人前に出るときは、大抵反省会のようなものが開かれる。いつも空気は重いが、今日は一段と酷かった。

『やはり王子との婚約は間違いだったのか……』

『だから言ったじゃありませんか! この子が王族に嫁ぐのは無謀だと! いくら第二王子にふさわしい年頃の侯爵令嬢がアルシャしかいないとはいえ……』

 父親が母親に怒鳴られている。怒鳴られている、というか、怒られている?
 普段は開口一番、わたしがお小言を貰うのに、今日は父親が言われている。……今日のあれは、何か決定的にまずいものだったらしい。
 わたしはぎこちなく笑みを浮かべた。

『――っ! 貴女のせいでこうなっているのよ! 何をのんきに笑っているの!』

 ……わたしまで母親に怒鳴られた。とりあえず笑っていろ、と言ったのはそっちなのに。
 なんかもう、どうでもよくなってきた。

 ネット小説のように、異世界の生活を楽しめるかと思っていたけど、全然そんなことはない。
 文化や生活が違うのは、百歩譲って楽しむことが出来る。でも、言葉が理解できないのは駄目だ。自分が間違っていても、間違っていると気が付かないまま、直すことも、取り繕うことも、きっとわたしは出来ていない。

『最初から、ミステラヴィスに送ってしまえば良かったのよ、この子を』

 ミステラ、なんとか。それは分かる。確か、父親の持つ領地の端っこの方にある、町の名前だ。この家の領地は二つの国に隣接している領地で、獣人が住むという国の方に面している町の名前……だと思う。
 わたしの家庭教師と思われる人が、必死に地図を指さして教えてくれた地名。わたしがその知識を正しく受け取れていれば、間違いない。

『だが、あそこはヴェスティエ王国と隣接している場だぞ。いくらなんでも、貴族家の娘を行かせるわけには……』

『……この子がいなくなっても、我が家にはまだあと二人娘がいます』

 深刻な表情で話す二人。話がまとまりそう……なのかな。

『たとえ連れ去られてしまうようなことがあっても――アルシャは、ミステラヴィスに向かう途中で事故にあって亡くなった。そう、主張すればよろしいのではなくて?』

『……それ、は……』

 ふ、と二人の視線がわたしに向く。何を求められているんだろう。
 わたしはよく分からないまま、とりあえず、教えられた通りに笑顔を浮かべた。
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