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第六部

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「それじゃあ、イエリオを起こしてくれますか?」

 わたしが聞くと、師匠は「どうしようかな」と言葉を濁した。
 ……いや、今解放してくれる流れだったじゃん! 誤解が解けたんじゃないの?

「まあ、十時間きっかり眠る魔法だ。放っておいても目を覚ます」

「……」

 そう言えば、そんな魔法があった、かも。わたしが、新しく魔法を覚えると、寝ていても構わず叩き起こして師匠に報告するものだから、本当にヤバいくらい徹夜続きのときは、そんな魔法を使っていた気がする。
 そんなものだから、わたしは起きるまで師匠の傍にいたりして――ああ、そういうところが、気に入られたのか、この人に。

「すぐにどうにかして殺すつもりだったからな。十時間もあればどうにでもできると思っていたが……」

 わたしはぴゃっと一瞬でイエリオの眠るベッドの傍にすり寄った。自分でもびっくりするスピードが出た。

「安心しろ、もう殺すつもりはないよ」

 そう言われても安心出来ないんだが!?
 師匠がそう言うなら信じたい気持ちもあるけれど、本当に殺さなかったとしても、ついさっきまで殺すつもりだったのなら、イエリオの傍を離れがたい。

「しかし、お前がこちらに来て、嫁になったのが希望〈キリス〉のせいではなかった、とはな。……あれだけ呪っておいたのに、死なないなんて、絶対、希望〈キリス〉が関わっていると思っていたんだが」

「今なんて?」

 とんでもなく恐ろしいことが聞こえてきた気がする。
 いや、でも、確かに。

 なんだかんだで、皆、一度は死にかけていたんじゃないだろうか。

 フィジャは、図書館の二階から落ちたと、腕を切りつけられたとき。図書館の二階から落ちたときは結構ヤバい落ち方をしていたし、腕を切りつけられたときも、深夜だったから、運が悪ければ……。

 イエリオは、スパネット関連で、何度も酷い目にあっている。研究所でも、彼の家でも――冒険者ギルドの支部に向かうときでも。

 あのウィルフだって、ローヴォルとやりあったときは不意打ちを打たれた上にわたしと言い合ってギリギリだったし、壁の上の通路から落ちかけることもあった。いくらウィルフでも、あの高さから落ちたらどうしようもない。

 イナリだって、シャシャさんの侵入自体には気が付いていなかった。あれはわたしが死ぬかどうかの瀬戸際でもあったけど、彼女が一歩間違えてお前を殺して自分も死ぬ、的な思想になっていたら。シャシカさんと和解しないで、冒険者に戻ることになっていたら。――メルフに、負けていたら。

 これら全てが、師匠の仕業だった、という、ことなのか。
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