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第六部

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「お前は間違っているんだよ、マレーゼ」

「――っ!」

 がっと、師匠がわたしの両肩を掴んで揺さぶる。

「目を覚ませ、それはお前の、本当の想いじゃないんだ!」

 なんで。なんでそんなこと、言うの。

 ずっと悩んできた。これでいいのかって、正しいのかって。
 世界中の誰が否定しようとも、誰かに皆を取られるくらいなら、と、わたしだって覚悟を決めた。一夫一妻の制度が当たり前の人間から見たら、非難されるかな、なんて、思ったのは一度や二度じゃない。そもそも、わたし自身がそっち側の人間だったから、正しくないと、ずっと思ってきた。

 わたしの決めたことを、正しくないと、否定されるのは、まだ耐えられる。

 でも、どうして、皆への感情そのものを否定するようなことを言うの。
 わたしは必死に身じろいで、師匠の手を外そうとする。でも、男女差の自力が違うので、彼の手は振りほどけない。
 わたしは師匠の手を振りほどくのを諦めた。一旦は。これだけ強く掴まれていたらどうしようもない。隙を見ないと……。
 でも、口は自由だから、反論することは出来る。

「どうして師匠がそんなこと決めるんですか! まがいものなんかじゃありません!」

「あいつらが、希望〈キリス〉を使って、お前をいいようにしたんだろう!? 内容は分からなくても、この時代に使われたのは分かってるんだ。希望〈キリス〉が使われてお前がいなくなって、相手が男で、お前の行動を見ていれば、願いの内容なんて、大体は分かる!」

 反論する言葉を、わたしは詰まらせてしまった。

 ――師匠もまた、わたしと同じ勘違いをしていたのだ。

 奇跡の魔法で、千年後に嫁として呼ばれた。それは正しくない。
 わたしが魔法を間違えただけで、本当はわたしが千年後に呼ばれたことに関して、一切希望〈キリス〉が関わっていない、というのを、彼は知らないのだ。

 本当に、師匠が不老不死なら、生死の概念がない精霊のピスケリオのように、数年なんて誤差のようなもの、と言われてもおかしくはない。
 ましてや、千年。そんな先のことを、細かく分かるわけがない。

 魔法が失われたことを、師匠が知っていなくても、ずっと使われてこなかった魔法が急に一度だけ使われたら、そうだと思い込んでもおかしくない。
 師匠がこんなにも必死になっているのは――わたしの思考が、希望〈キリス〉によって改変されたと思い込んでいるから、なのだろうか。
 ただ、勘違いで行違ってしまっただけなら、まだ、和解の道はあるかもしれない。

「――違います、師匠。本当に、違うの」

 わたしは、師匠を落ち着かせるように、ゆっくりと、言い聞かせた。
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