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第六部

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 両親の共通の友人なのか、彼はいつだって、わたしの、二度目の人生の傍にいた。幼い頃は一緒に遊んでくれて、魔法を教えてくれて、使って見せて。――両親が死んだとき、葬儀をするのも手伝ってくれた。

 そんな彼が――師匠と、尊敬してやまない彼が、そこに、いた。

 わたしが千年前、最後に見た師匠となにも変わらない姿で。

「ほ、ほんもの、なの……?」

 本物なわけあるか。だって、千年だよ。かつてわたしが生きた時代から、千年が立っている。いまさら、その事実を疑うことはない。全然常識の違う文化に生きて、それでも時々、古い文献としてかつて暮らした故郷を見て。
 嘘なわけがない。
 嘘なわけ、ない、のに……。

「本物だよ。本物の、君の師匠のキリスだ」

 どこからどう見ても、師匠にしか見えない。でも、そんなこと、あり得ない。
 千年を生きる人間が、いる、わけ――。

「何を言えばお前は、ぼくが本物だと信じるかな? ぼくが初めて見せた魔法? それともマレーゼが初めて覚えた魔法? 治癒の魔法を覚えたのに医療知識がないから使えないと知ったとき、メネールに馬鹿にされて大喧嘩して、温室の一角を駄目にしたときの話? それとも――」

 あれこれと、わたしがシーバイズで暮らしてきたときのエピソードを上げていく。どれもが、師匠が確かにその場にいたときの話だ。弟子に対して、去る者追わず来る者拒まず、で、ある意味無関心だった彼が、こんなにも話をぽんぽんと上げるのは逆にちょっと信用に欠ける、けど。

「言っただろう? ぼくは不老不死なんだって。これでようやく証明できたかな」

「そんな、話――」

 してない、と言おうとして、記憶の片隅に、引っかかることに気が付いた。

 シーバイズで一時期流行った、歌姫の恋愛小説。産みの親に捨てられたけど、得意の歌で歌姫として活躍するけれど、病気で声が出なくなって、自分と言うものが分からなくなったときに、恋を知る話。
 あれが流行って、読んでいたときに、そんな会話を、した記憶が、ある。

――最近、その小説が流行っているんだって? 懐かしいな。

――懐かしい? でもこれ、ノンフィクション、ってうたう割には、歌姫が誰か分からないんですよね。

――ああ、五十年か、八十年前くらいの、国外の子のことだからね。流石に海を超えて話題にはならなかったんだと思うよ。

――五十年と八十年ってだいぶ違いますけど。ていうか師匠、何歳なんですか。

――さあ、もう数えてないかな。不老不死ともなると数十年単位はあっという間だよ。

――いや、不老不死って。師匠もそんな冗談いうんですね。

――冗談じゃないんだけどなあ……。

 した――してたわ。

 じゃあ、本当に? 偽物じゃない? 
 でも、師匠が不老不死、だと言われても、どこか、妙に納得できてしまう。わたしがシーバイズに生まれて二十余年。この人は、確かに全然、変わらなかった。もちろん、一切変化がない、というわけじゃないけど、老けていない、というべきだったのも、また、事実。
 少し強引であるが、不老不死、だと言われてしまえば説明はつく。

 本当に、師匠、なんだ。

 師匠――師匠。
 懐かしさに、彼の元へ行きたくなる。――でも、今、彼に気を許すことはできない。

「師匠……どうして、イエリオがこんなところで眠らされているんですか。それに、わたしだって――」

 師匠に問いただそうとしたとき、うっすらと笑っていた彼の表情がすっと抜け落ちた。
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