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第六部

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 どうしてわたしがここにいるのか。

 今まで深く考えもしなかったことが、ここにきて浮き彫りになる。
 そりゃあ、今となっては、イエリオたちに出会えたから、千年後に飛ばされたとしても終わりよければすべてよし、みたいなところがあるけれど。

 でも、どうしてここにいるのか分からない、というのは、気になってしまう。――もしかしたら、選べず、元の時代に戻ってしまうかもしれないから。
 メルフに帰ろう、と言われたときのように、ぞわぞわとしたものが体に走る。

 ――帰りたく、ない。

「……ピスケリオ、わたしがどうしてここにいるのか、分かる? 何か魔法、使われたの?」

 魔法だったら精霊であるピスケリオが分かるはず。そう思って聞いたのだが――。

「説明が面倒くさくなってきましたわ。というか喋るのがめんどくさい」

 べちょ、とまたピスケリオが地面に伏せる。今ここで面倒にならないでよ!

「ピスケリオってば! 何かの魔法でわたしは連れてこられたんでしょ? 何かのきっかけで元に戻ることはあるの!? ねえってば!」

 わたしはピスケリオの尾びれを持ち上げ、ぶんぶんと振り回した。もはやなりふり構っていられない。

「ちょ、離し――目が回る! 目が回りますわ! ああもう! 時間を移動する魔法は人の子は知らないしわたくしたち精霊も教えないから大丈夫ですわよ!  お離しになって! ご自分の失敗を棚にあげてわたくしにだけ八つ当たりするのはどうかと思いますわよ!」

「――……失敗?」

 わたしはぴたっと手を止める。ぬるり、と手からピスケリオが逃げていった。

「転移魔法の失敗ですわよ。全ての責任は貴女にございますのよ。自業自得ですわ」

 ……そう言えば、最初は転移魔法に失敗して、遠い国に来てしまったと思ったんだっけ。タイミングよく、希望〈キリグラ〉の話が出たから、てっきりそうなのだとばかり思っていたが。

「じゃあ、わたし、帰らなくていいの?」

「むしろ帰れませんわよ。これで疑問は晴れまして? わたしくし、本当にウィルフの様子を見に行くのに当面のやる気を使いましたの。そろそろ寝たいところですわ」

「ごめん、ありがとう」

 わたしがそう言うと、ピスケリオは地面に伸びて話さなくなった。見た目が魚だから分かりにくいが、眠ったのかもしれない。
 でも、ずっと気になってたことだから、ハッキリわかってよかった。

 ホッと一息ついて、わたしはイエリオの方を向く。――そこには、誰もいなかった。

「……イエリオ?」

 一瞬、何か珍しいものでも見つけて、またわたしを置いて駆け寄ったのか、なんて思ったけど、そんなはずない、と思いなおす。いくらイエリオだって、こんな話をしているときに、横やりを入れたり勝手にいなくなったりしないはず。

「イエリオ、どこ行ったの?」

 辺りを見回しても、彼の姿がない。どうしよう。どこ、に――。
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