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第六部

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 それにしてもピスケリオのやる気がない。面倒くさがるのはいつものことだけど、それを考慮しても目が死んでいるように思う。もうちょっときらきらしていたような……。陸地にいるのも相まって、本当に死んだ魚のようである。

「ピスケリオ、元気ないの? 大丈夫?」

「ちょっと獣人に化けて、街に友だちの様子を見に行ったので、十年分のやる気を使い果たしただけですわ。体調面は健康そのものですので、気にしないでくださいまし」

「友だち?」

 ピスケリオに友だちなんていたのか。街、ということは、ここから一番近い、わたしたちの街にいるのかな。それとも、十年分のやる気を出した、ということは、シャルベンか、それよりもっと遠い街か。
 でも、そこまで交通網が発展していない世界だから、そこまで遠くはないんだろうな、なんて思っていると――。

「ウィルフ、という名のローヴォルの獣人ですの」

 ――なんだか、すごく、聞き覚えのある名前を聞いた。

 わたしとイエリオは思わず顔を見合わせてしまった。

「ろ、ローヴォルって……」

「この辺りに住んでいる魔物ですわ。たまにしか、顔を見ませんけど」

 イエリオに聞くと、本当はもう少し先がローヴォルの主な生息地らしい。ここの塩湖はローヴォルの生息地の端っこも端っこだが、一応範囲の中ではあるので、時折姿を表すらしい。オカルさんの言っていた、たまに出る結構強い魔物、というのはローヴォルのことだったのだろうか。

「というか、貴女、わたくしが街にいる間に会いましたわよ」

「えっ、いつ!?」

「冒険者ギルドの支部で」

 ――冒険者ギルドの支部?

 街にスパネットが入り込んで、避難するために向かったときのことか? あの避難した人の中に、ピスケリオが混ざっていたのだろうか。

 ――……。
 ……そう言えば、お嬢様口調のギルド職員が、いたような……。どこかいいところのお嬢様なのか、とか、思ったけれど、もしかして、あれがピスケリオだったの?

「聞けば獣人になったウィルフは冒険者になったらしいので、職員に紛れ込めば手っ取り早く情報を掴めるかと思いまして……でも、働かされたのは予想外でしたわ。向こう十年は何もしたくありません」

 間違いない、あれがピスケリオだったのか。化けるだけではなく、認識を操る系統の魔法も使っていそうだ。全然気が付かなかった。精霊こわ……。

「でも、意外。ピスケリオに友だちがいるのもだけど、それの様子を見に行くために自ら動くなんて」

 ピスケリオが誰かの為に行動するとは思わなかった。それほどまでに、ウィルフは彼女(メルフは彼っぽいけど、ピスケリオは口調からして彼女っぽい)にとって大事な友人なのだろうか。

「だって、彼に希望〈キリス〉の魔法を教えたのはわたくしですもの。責任もって、様子を見に行くのが筋ではなくて? まあ、彼がいなくなってから結構経ってますけれど……」

 ピスケリオの言葉に、わたしとイエリオは、同時に「えっ」という声を上げてしまった。
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