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第六部

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 わたしは二人が眠っている間、勉強でもしていようかな、と勉強道具を取り出した。地道に共用語をフィジャから教えてもらって、今では簡単な自主学習が出来るくらいには成長していた。といっても、多分、前世で言う小学生くらいのことしか出来ていない自覚はあるけど。
 それでもまったく言葉が分からなかった頃に比べればかなりの成長だと思う。

 ノートを広げて、図書館から借りてきた勉強用の本を見ながら、言葉を書き写したり、意味を書いたりする。
 不幸中の幸い、と言うべきか、文法自体はそこまできっちりしていなくて、単語を並べるだけでもそこそこ文章になるので、簡単なものなら読めるようになったのだ。

 とはいえ、こんな子供が書いたような文章では、到底イエリオの研究所では扱ってもらえないので、未だに解読するときは読み上げ形式である。
 今の目標は、シーバイズ語を解読したものを一人で文章に出来るようになること、と言ったところだろうか。

 目標があれば、勉強も苦じゃなくなるんだな、なんて、何のために勉強するか分からなくてひいひい言っていた前世の学生時代を思い出して苦笑してしまう。

 カリカリと文字を書き進め、一ページもしない内に、二人が気になって、つい、ベッドの方を見てしまう。
 二人はそろって、寝息を立てていた。

 やっぱり疲れているんじゃん、なんて、内心でわたしは溜息を吐いた。仕事上、寝る時間が不規則になりがちなのは仕方がないことだとしても、だからこそ余計に、休めるときには休んでほしい、という気持ちになってしまう。

 わたしは勉強する手を止めて、二人の寝顔を見に行った。ちゃんと寝ているか、という確認もあったけれど、つい、気になってしまって。

 こうしてみると、二人ともちゃんと整った顔をしているよなあ、と思う。顔の造形よりも、人間に近いかどうかが美醜基準の獣人である二人からしたら、そんなに嬉しくない誉め言葉なのかもしれないけど。

 世界や時代が変わると美醜観も変わるのは、当たり前といえば当たり前なのだが、不思議な感じがする。シーバイズは、きびきびした、スレンダーで働く人間がモテたけれど、別に顔の造形自体は、そんなに前世とかけ離れた美醜観をしていなかったから、特に。

 ふわふわの耳とか、しっぽとか、わたしには魅力的に見えるのに。寒い日なんかは、とてもくっつきたくなる。フィジャは単純に鱗かっこいいな、としか思わない。でも、平均体温が低めだから、彼だけはくっつくなら暑い日かな……。
 前世よりは四季がはっきりしていない国だけど、それでも、一年を通して見れば寒暖差はちゃんとあるので。

「耳とか、触らせてくれないかな……」

 気になって、わたしはつい、そんな言葉を漏らしてしまう。
 しっぽは、くっついている先がおしりのあたりだから、ちょっとセクハラっぽいけど、耳ならたどっても、頭から生えているのでまだハードルが低いように思うけど、獣人的にはどうなんだろう……。
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