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第六部
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一瞬、ぽかんとした様子のウィルフの先輩。どうやら本当に嫁だとは思わなかったらしい。
「お前、本当に既婚者だったんだな。あ、いや、変な意味じゃなくて、ほら、お前まだ若いから。既婚者だとか言っても、婚約状態とかなのかとばかり」
この国――というか、獣人自体、成人と言う概念が曖昧な様子だったけど、それでもウィルフはまだ若い部類になるらしい。
「結構いるんだよな。相手はいるんだけど、家が建てられなくて婚約状態なままの奴」
ああ成程、とわたしはようやく納得する。この国では婚姻届けとか、そういう明確なものがないかわりに、家と首輪が必要なようだし。確かにウィルフの歳で家を建てるって、かなり凄いことだ。たとえ他に夫がいて、一人で資金を貯めたわけじゃなくても。
しかも、ローンとか組まないで一括だもんな……。特級冒険者の財力、凄い。
しかし、既婚者、か。もしかして、ウィルフ、職場ではなにか、そういう話をしているんだろうか。それとも、必要書類に書いただけ、とか?
ウィルフは行動に全て出る代わりに、びっくりするくらい何も言わない。何か言っているならちょっと気になるな、と思う。
わたしがそんなことを考えているのが伝わったのか、ウィルフの先輩はにやっと、いたずらっ子っぽい笑みを浮かべる。
「こいつ、たまに嫁の話をするんだぜ」
「へえ!」
わたし以上にフィジャが食いついた。フィジャも、ウィルフの先輩と同じような笑みを浮かべている。なんだかんだ、ウィルフはからかいがいのある末っ子ってところなんだろう。
「ちょっと、やめてください」
ウィルフが嫌そうな顔で止めに入る。わたしも気になるので、「嫌がってるよ」と軽く止めるが本気で止めはしない。悪口とか言われてないといいんだけど――まあ、ウィルフの先輩の表情を見るに、その確立は低そうだ。
「こいつ――」
「おい、ウィルフ、ベイカー、昼休憩行くなら早く行かないと、時間なくなるぞ」
ウィルフの先輩が話そうとした瞬間、また別の誰かが、こちらに声をかけてくる。
残念、話を聞きたかったけれど、流石にウィルフの昼休憩を潰してまで聞きたいわけじゃない。
「フィジャ、そろそろ帰ろうか。あんまり長居して邪魔しても悪いし」
「ええー。まあ、仕方ないか。じゃあね、ウィルフ。無理して食べ切らなくてもいいから」
少し残念そうな様子を見せつつも、フィジャはおとなしく引き下がった。
「無理して食わなくていいならこんなに持ってくるなよ」
「いや、選別してそれなんだよ。夕ご飯はこれの残りだよぉ」
フィジャの言葉を聞いて、ウィルフは、呆れたように「どれだけ作ったんだ……」と言った。作るの楽しくなっちゃったんだからしょうがない……。作りすぎた自覚はある。
「お、じゃあ、俺が――」
「いえ、自分の分なので」
ちょっと食ってやるか、と言わんばかりの声音の、ウィルフの先輩に、ウィルフはサッと紙袋を守る様に彼から離した。
嬉しくなって、ウィルフに笑いかけると、思い切り睨まれてしまった。
わあ、こわい。
「お前、本当に既婚者だったんだな。あ、いや、変な意味じゃなくて、ほら、お前まだ若いから。既婚者だとか言っても、婚約状態とかなのかとばかり」
この国――というか、獣人自体、成人と言う概念が曖昧な様子だったけど、それでもウィルフはまだ若い部類になるらしい。
「結構いるんだよな。相手はいるんだけど、家が建てられなくて婚約状態なままの奴」
ああ成程、とわたしはようやく納得する。この国では婚姻届けとか、そういう明確なものがないかわりに、家と首輪が必要なようだし。確かにウィルフの歳で家を建てるって、かなり凄いことだ。たとえ他に夫がいて、一人で資金を貯めたわけじゃなくても。
しかも、ローンとか組まないで一括だもんな……。特級冒険者の財力、凄い。
しかし、既婚者、か。もしかして、ウィルフ、職場ではなにか、そういう話をしているんだろうか。それとも、必要書類に書いただけ、とか?
ウィルフは行動に全て出る代わりに、びっくりするくらい何も言わない。何か言っているならちょっと気になるな、と思う。
わたしがそんなことを考えているのが伝わったのか、ウィルフの先輩はにやっと、いたずらっ子っぽい笑みを浮かべる。
「こいつ、たまに嫁の話をするんだぜ」
「へえ!」
わたし以上にフィジャが食いついた。フィジャも、ウィルフの先輩と同じような笑みを浮かべている。なんだかんだ、ウィルフはからかいがいのある末っ子ってところなんだろう。
「ちょっと、やめてください」
ウィルフが嫌そうな顔で止めに入る。わたしも気になるので、「嫌がってるよ」と軽く止めるが本気で止めはしない。悪口とか言われてないといいんだけど――まあ、ウィルフの先輩の表情を見るに、その確立は低そうだ。
「こいつ――」
「おい、ウィルフ、ベイカー、昼休憩行くなら早く行かないと、時間なくなるぞ」
ウィルフの先輩が話そうとした瞬間、また別の誰かが、こちらに声をかけてくる。
残念、話を聞きたかったけれど、流石にウィルフの昼休憩を潰してまで聞きたいわけじゃない。
「フィジャ、そろそろ帰ろうか。あんまり長居して邪魔しても悪いし」
「ええー。まあ、仕方ないか。じゃあね、ウィルフ。無理して食べ切らなくてもいいから」
少し残念そうな様子を見せつつも、フィジャはおとなしく引き下がった。
「無理して食わなくていいならこんなに持ってくるなよ」
「いや、選別してそれなんだよ。夕ご飯はこれの残りだよぉ」
フィジャの言葉を聞いて、ウィルフは、呆れたように「どれだけ作ったんだ……」と言った。作るの楽しくなっちゃったんだからしょうがない……。作りすぎた自覚はある。
「お、じゃあ、俺が――」
「いえ、自分の分なので」
ちょっと食ってやるか、と言わんばかりの声音の、ウィルフの先輩に、ウィルフはサッと紙袋を守る様に彼から離した。
嬉しくなって、ウィルフに笑いかけると、思い切り睨まれてしまった。
わあ、こわい。
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