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第六部

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 ウィルフに告白してから数日。次はイナリだ、と思っていたのに、最近また仕事が立て込んでいるようでどうにも話しかけにくい。祝集祭前くらいバタバタしているように見える。そういう時期なのかな、と思いながら、わたしは彼の仕事が落ち着くのを待っていた。

 早く言いたい気持ちはあるけれど、仕事が忙しくて慌ただしい日々の中でそんなこと言われても、って感じだろう。
 無下にはされないだろうけど、でも、わたしが逆の立場だったらもっと時期を考えてくれって、多少なりとも思ってしまう。嬉しいけど、一杯喜べる体力がないときにはちょっと控えてほしい気持ちもあるのだ。

 なんてことを考える。

「――ふ、っくしゅん! ったい!」

 くしゃみを一つ。顔をそむけた瞬間に、包丁で指先を切ってしまったようだ。
 今日は珍しく目が早く覚めて、でも、二度寝したらいつもの時間の起きれる自信がなかったから、そのまま起きて、朝食の準備をしていたのだ。まだフィジャが起きてくる時間じゃないから、わたし一人である。

 やっちゃったあ、とわたしは慌てて、両手をまな板付近から遠ざけた。包丁に血はついてしまったが、下には落下していないようだ。
 包丁を洗って、あと絆創膏も……とシンクの前に立っていると、横から声をかけられる。

「なに、切ったの?」

「うわっ!」

 わたしは思わず声を上げてしまった。
 びっくりして横を向くと、イナリが立っていた。くっきりと、というほどではないが、なかなかにクマが目立つ。

「……イナリ、ちゃんと寝てる?」

 わたしはそのクマを見て、思わず聞いてしまった。わたしはちょっと指先を切っただけで、痛みもほんの一瞬のこと。
 わたしの指先なんかより、イナリの方が深刻に見えたのだ。

「……今から出勤ギリギリまで寝るところ」

 ぼそり、とイナリが呟く。今日は確か、昼前に家を出るんだっけ。全く寝られない、ってわけじゃないけど、もっとちゃんと寝た方がいいんじゃないだろうか。
 わたしがそう文句を言いたい雰囲気を察したのか、イナリは「あと一週間もしないで元の生活に戻るよ」とバツが悪そうに言う。

「それより――」

 イナリがわたしの手を取って、固まった。そっちから手を伸ばしてきたのに、どうしたんだろう。
 少し固まった後、イナリがじぃ、とこちらを見てくる。

 えっ、急に何?

 びっくりして、わたしまでどう動いたらいいのか分からなくなってしまう。
 何か考えるような表情のイナリが、ようやく口を開いた。

「――マレーゼ、それ、そのままでいいから。ちょっと熱計ってきて」

 ……熱?
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