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第六部

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 妙な沈黙の中、わたしの頭は一気に覚醒する。わたしもウィルフも黙ってしまった緊張感に耐えられず、手の中でくしゃっと紙を握りつぶしてしまう音がした。
 三度目なのに、どう話すか、言葉が出てこない。

 ――いや、何度だって、慣れるわけがない。
 だって、ウィルフに好意を伝えるのは、今が初めてなんだから。

 わたしが黙っている中、ウィルフが先に口を開いた。

「お前、まだ寝ぼけてんのか?」

 ウィルフがそう言いながら、ふっと、わたしから目線をそらす。
 あ、どこか行っちゃう。
 わたしはウィルフの動きが、どこかへ行ってしまうように見えて、わたしは慌てて身を乗り出し、ウィルフの服の裾に手を伸ばした。

「寝ぼけてない。や、寝ぼけてるって言ったら寝ぼけてたけど、でも、あの、間違い――と言えば間違いなんだけど、でも、嘘じゃないの」

「ま――だ、寝ぼけてんだろ。なんだその、説明」

 一瞬だけ、ウィルフの言葉が詰まった。
 彼の表情は見えない。

「寝ぼけてたのは本当。間違えたのは、タイミング。――……好きっていうのは、嘘じゃない、って、こと、なんだけど……」

 言い直しても、ウィルフはこっちを見てくれない。怒らせた、って、ことはないよね……?

 不安になりながらも、わたしはわたしなりに、みんなの嫁として――家族ではなく、『女』として傍にいることを選んだと、ウィルフに伝える。ついでに、フィジャとイエリオにはもう言った、ということも。

 自分でも、たどたどしく思う言葉だったけど、不足なく伝えられた、と、思う。
 それでもウィルフはこっちを向いてくれなくて――でも、代わりに、彼のしっぽが揺れていた。
 指摘したい気持ちがあふれてくるが、言ったら多分、ウィルフ、ここから立ち去ってしまうだろうな、と、その感情をぐっと押さえる。
 どのみち、しっぽが揺れたのは、ほんの少しの間だった。

「――お前はいいのか。俺たち――俺、みたいなので」

 その言葉に、わたしはきょとんとしてしまった。ウィルフがそういうことを、気にすると思わなかったのだ。

 確かに、わたしと結婚する、ということになった際、一番、拒絶反応を見せていたのはウィルフだった。
 でも、それは、わたしがきっかけでフィジャたちに、ウィルフが元々は魔物だったということがバレるのが嫌だったから、だとばかり。最初は単純に、嫌われているだけだと思っていたけど。

 だからこそ、今、こうして確認を取られるのが、ちょっと意外だった。

「みたいなの、なんかじゃないよ。わたしは、皆がいいの」

 きっかけは魔法だったかもしれない。
 でも、この感情は、まぎれもない、わたしだけのものだ。
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