398 / 452
第六部
392
しおりを挟む
顔を上げると、ベッドの上に倒れ込んでいるフィジャが目に入った。エッ、大丈夫?
わたしは思わず立ち上がってしまった。どんな表情をしているだろうと、見るのが怖かったけれど、まさか表情が見えないとは思わなくて。
「だ、大丈夫……?」
わたしが聞くと、か細い声で「大丈夫じゃない……」と聞こえてきた。
「どこか具合が悪いの? それとも眠い? 結構な時間だもんね、変なタイミングでごめん……」
「いや、そうじゃなくて、そうじゃなくてぇ……」
フィジャは伏せったままだ。――ただ、立ち上がったことにより、彼の耳が真っ赤になっていることに気が付く。フィジャは肌に目立つ数の鱗こそあるが、形自体は人と大差ないので、顔が赤くなると耳も赤くなるのが見える。――耳どころか、首まで真っ赤だ。
「マレーゼ」
顔を上げないまま、フィジャがわたしの名前を呼ぶ。
「……皆にも、似たようなこと、言うんだよね?」
「そ、そのつもりだけど……」
声音に攻撃性はなく、どうせ他の人にも同じこと言うんでしょ、という、非難の色はない。本当にただの確認のようである。
「絶対、昼間に言って」
「……昼間?」
全然想像していなかった言葉に、わたしは思わず聞き返してしまう。
「そう、昼間。絶対、夜は、駄目だよぉ!」
なんで駄目なのかいまいち分からないけど、別に話すのはいつだっていい。いやまあ、夜の方がゆっくり話せるのは事実だけど、落ち着いて話せることが出来ればいつでもいいので、わたしはフィジャの言う通りにしよう。
次に話すのは、順番を守ってイエリオであるべきか、なんて考えていると、フィジャの「夜だと我慢しなきゃいけないじゃん……」という小さな声が聞こえてきた。
「我慢?」
わたしはつい、聞き返してしまう。
声量的に、独り言のつもりだったのかもしれない。フィジャの肩が、びくり、と跳ねた。いや、でも、この距離では聞こえちゃうって。夜中だし、部屋には二人きりだし。
フィジャが少し黙りこくって、妙な間が出来る。――少しして、フィジャが、がばりと起き上がった。その顔はこれ以上ないくらいに真っ赤で、ほんの少し、涙目だった。
「そうだよぉ! こんな時間に、二人きりで、好きな人からこんな可愛いこと言われても! 流石にまだ手は出せないよぉ! この状態で抜け駆けなんて出来ないって!」
「――手」
そこまで言われれば、流石にわたしでもピンと来る。確かに、状況としては、そういう流れになってもおかしくない、のかも……。
そうなることまでは考えていなくて、一気に顔が熱くなる。
わたしは挙動がさらにおかしくなった自覚を持ちつつも、扉の方へと移動した。
「そ、その、それ、これを言いたかった、だけなの。きょ、今日のところは、帰る――」
ドアノブに手をかけた瞬間、手を引っ張られ、フィジャに抱きしめられる。
「結婚、してるけど。マレーゼのプロポーズ、受けとるよ」
フィジャはそう言うと、ぱっと体を離した。
「こ、このくらいならセーフ……でしょ、うん。ほら、おやすみ! 他の皆には絶対、昼間に話してね」
わたしはその言葉に、何度も頷き、フィジャの部屋を後にした。
――寝られるかな、これ。
わたしは思わず立ち上がってしまった。どんな表情をしているだろうと、見るのが怖かったけれど、まさか表情が見えないとは思わなくて。
「だ、大丈夫……?」
わたしが聞くと、か細い声で「大丈夫じゃない……」と聞こえてきた。
「どこか具合が悪いの? それとも眠い? 結構な時間だもんね、変なタイミングでごめん……」
「いや、そうじゃなくて、そうじゃなくてぇ……」
フィジャは伏せったままだ。――ただ、立ち上がったことにより、彼の耳が真っ赤になっていることに気が付く。フィジャは肌に目立つ数の鱗こそあるが、形自体は人と大差ないので、顔が赤くなると耳も赤くなるのが見える。――耳どころか、首まで真っ赤だ。
「マレーゼ」
顔を上げないまま、フィジャがわたしの名前を呼ぶ。
「……皆にも、似たようなこと、言うんだよね?」
「そ、そのつもりだけど……」
声音に攻撃性はなく、どうせ他の人にも同じこと言うんでしょ、という、非難の色はない。本当にただの確認のようである。
「絶対、昼間に言って」
「……昼間?」
全然想像していなかった言葉に、わたしは思わず聞き返してしまう。
「そう、昼間。絶対、夜は、駄目だよぉ!」
なんで駄目なのかいまいち分からないけど、別に話すのはいつだっていい。いやまあ、夜の方がゆっくり話せるのは事実だけど、落ち着いて話せることが出来ればいつでもいいので、わたしはフィジャの言う通りにしよう。
次に話すのは、順番を守ってイエリオであるべきか、なんて考えていると、フィジャの「夜だと我慢しなきゃいけないじゃん……」という小さな声が聞こえてきた。
「我慢?」
わたしはつい、聞き返してしまう。
声量的に、独り言のつもりだったのかもしれない。フィジャの肩が、びくり、と跳ねた。いや、でも、この距離では聞こえちゃうって。夜中だし、部屋には二人きりだし。
フィジャが少し黙りこくって、妙な間が出来る。――少しして、フィジャが、がばりと起き上がった。その顔はこれ以上ないくらいに真っ赤で、ほんの少し、涙目だった。
「そうだよぉ! こんな時間に、二人きりで、好きな人からこんな可愛いこと言われても! 流石にまだ手は出せないよぉ! この状態で抜け駆けなんて出来ないって!」
「――手」
そこまで言われれば、流石にわたしでもピンと来る。確かに、状況としては、そういう流れになってもおかしくない、のかも……。
そうなることまでは考えていなくて、一気に顔が熱くなる。
わたしは挙動がさらにおかしくなった自覚を持ちつつも、扉の方へと移動した。
「そ、その、それ、これを言いたかった、だけなの。きょ、今日のところは、帰る――」
ドアノブに手をかけた瞬間、手を引っ張られ、フィジャに抱きしめられる。
「結婚、してるけど。マレーゼのプロポーズ、受けとるよ」
フィジャはそう言うと、ぱっと体を離した。
「こ、このくらいならセーフ……でしょ、うん。ほら、おやすみ! 他の皆には絶対、昼間に話してね」
わたしはその言葉に、何度も頷き、フィジャの部屋を後にした。
――寝られるかな、これ。
0
お気に入りに追加
612
あなたにおすすめの小説
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話
やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。
順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。
※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。
美醜逆転の異世界で私は恋をする
抹茶入りココア
恋愛
気が付いたら私は森の中にいた。その森の中で頭に犬っぽい耳がある美青年と出会う。
私は美醜逆転していて女性の数が少ないという異世界に来てしまったみたいだ。
そこで出会う人達に大事にされながらその世界で私は恋をする。
気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。
sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。
気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。
※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。
!直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。
※小説家になろうさんでも投稿しています。
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる