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第六部

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 顔を上げると、ベッドの上に倒れ込んでいるフィジャが目に入った。エッ、大丈夫?
 わたしは思わず立ち上がってしまった。どんな表情をしているだろうと、見るのが怖かったけれど、まさか表情が見えないとは思わなくて。

「だ、大丈夫……?」

 わたしが聞くと、か細い声で「大丈夫じゃない……」と聞こえてきた。

「どこか具合が悪いの? それとも眠い? 結構な時間だもんね、変なタイミングでごめん……」

「いや、そうじゃなくて、そうじゃなくてぇ……」

 フィジャは伏せったままだ。――ただ、立ち上がったことにより、彼の耳が真っ赤になっていることに気が付く。フィジャは肌に目立つ数の鱗こそあるが、形自体は人と大差ないので、顔が赤くなると耳も赤くなるのが見える。――耳どころか、首まで真っ赤だ。

「マレーゼ」

 顔を上げないまま、フィジャがわたしの名前を呼ぶ。

「……皆にも、似たようなこと、言うんだよね?」

「そ、そのつもりだけど……」

 声音に攻撃性はなく、どうせ他の人にも同じこと言うんでしょ、という、非難の色はない。本当にただの確認のようである。

「絶対、昼間に言って」

「……昼間?」

 全然想像していなかった言葉に、わたしは思わず聞き返してしまう。

「そう、昼間。絶対、夜は、駄目だよぉ!」

 なんで駄目なのかいまいち分からないけど、別に話すのはいつだっていい。いやまあ、夜の方がゆっくり話せるのは事実だけど、落ち着いて話せることが出来ればいつでもいいので、わたしはフィジャの言う通りにしよう。

 次に話すのは、順番を守ってイエリオであるべきか、なんて考えていると、フィジャの「夜だと我慢しなきゃいけないじゃん……」という小さな声が聞こえてきた。

「我慢?」

 わたしはつい、聞き返してしまう。
 声量的に、独り言のつもりだったのかもしれない。フィジャの肩が、びくり、と跳ねた。いや、でも、この距離では聞こえちゃうって。夜中だし、部屋には二人きりだし。

 フィジャが少し黙りこくって、妙な間が出来る。――少しして、フィジャが、がばりと起き上がった。その顔はこれ以上ないくらいに真っ赤で、ほんの少し、涙目だった。

「そうだよぉ! こんな時間に、二人きりで、好きな人からこんな可愛いこと言われても! 流石にまだ手は出せないよぉ! この状態で抜け駆けなんて出来ないって!」

「――手」

 そこまで言われれば、流石にわたしでもピンと来る。確かに、状況としては、そういう流れになってもおかしくない、のかも……。
 そうなることまでは考えていなくて、一気に顔が熱くなる。

 わたしは挙動がさらにおかしくなった自覚を持ちつつも、扉の方へと移動した。

「そ、その、それ、これを言いたかった、だけなの。きょ、今日のところは、帰る――」

 ドアノブに手をかけた瞬間、手を引っ張られ、フィジャに抱きしめられる。

「結婚、してるけど。マレーゼのプロポーズ、受けとるよ」

 フィジャはそう言うと、ぱっと体を離した。

「こ、このくらいならセーフ……でしょ、うん。ほら、おやすみ! 他の皆には絶対、昼間に話してね」

 わたしはその言葉に、何度も頷き、フィジャの部屋を後にした。

 ――寝られるかな、これ。
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