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第六部

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 結構な夜中。わたしはつい、フィジャの部屋の前にまで来てしまっていた。――こんなの、この家に移り住んでから一度もしたことがない。
 まだ起きているのか、いや、流石にこの時間は寝てるよな、なんて考えて、わたしはノックをするかどうか決めかねていた。

 ノックをしよう、と手を上げては、やっぱりやめようかな、と手を下げる。さっきから、そんなことばかりしていた。
 話がしたくて来たはいいものの、わたしの脳内で言葉が上手くまとまっていないのだ。これでも、風呂場や自室で散々考えて、なるようになれと、今、ここまで来ている。

 フィジャなら、考えをまとめながら話したって根気よく付き合ってくれる、と思う反面、ある程度自分の中で整理して話したい気持ちがある。

 ――いや、でも、寝てるかもだし。ノックするだけして、それから考えようかな……。

 そう思って、意を決してノックをしようとした、その瞬間。

「みゅぐっ!」

 ばちん、と顔面に扉が当たって、変な声が口から漏れた。痛みよりも驚きの方が勝って、強打した鼻を押さえることもなく、ぽかんとしてしまった。

「えっ、嘘、何――え、マレーゼ!? 大丈夫? 今、絶対当たったよね!?」

 驚いているのはフィジャも同じだ。おろおろとして、わたしの顔を覗き込んでくる。髪をおろしているフィジャを見るのは久々で、見られるタイミングが限定的なその髪型を見て、わたしはなんだか目線をそらしてしまった。だってフィジャ、寝るときにくらいしか、髪をおろさないんだもん……。

「顔赤くなってる……。ごめん、思い切り当たったんだよね? 寝る前に水を飲もうと思ったんだけど、まさか誰かいるとは思わなくて」

「いや、うん、あの……わ、わたしもタイミングが悪かったというか、なんていうか……」

 顔が赤いのは、多分顔面を強打したからだけじゃないし、ついさっき来たばかりでもないけど、いちいち説明するのが照れくさくて、わたしはつい、ごまかした。

 鼻をすって間を持たせるわたしに、フィジャは「冷やす?」と聞いてくる。
 鼻は痛いけど、鼻血は出てないし、別に変形しているということもない。放っておけばそのうち痛みも引くだろう。

「鼻は大丈夫。それより、あの……もう、寝る、んだよね?」

 さっき寝るって言ってたじゃん……と自分で言っておきながら、脳内で突っ込んでいた。駄目だ、いざフィジャを目の前にしたら、思った以上に言葉が出てこない。
 出直そうかな、と思ったけれど。

「ううん、まだそこまで眠くはないし。話があるなら聞くよぉ」

 なんだか嬉しそうに笑うフィジャを見て、そんな考えはどこかへと消えてしまった。
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