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第六部
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食事と言えば、ということで、シーバイズ時代の食事について、めちゃくちゃ盛り上がった。シオイモのフライとエンエンマメサラダ、久々に食べたくなってきたな……。
エンエンマメもシオイモも、これだ、というものが発見されていないらしいが、以前行ったことのある調査で、食料が尽きたとき、その辺にあった果物や芋を食べた際、やたらしょっぱかったことがあると、イエリオが教えてくれた。
「もしかして、あれがシオイモ、とやらだったんでしょうか……!」
「あー、可能性はあるね」
シオイモやエンエンマメは海水で育ち、そのまま食べると丁度いい塩味になっている芋と豆である。味付けなんかしたら塩辛くて食べられない程になってしまう。
「近くに海があったなら、確実にシオイモですね」
「海はありませんが……塩湖のすぐ傍に生えていました」
「じゃあ、ほぼほぼシオイモと言ってもいいかも」
わたしがそう言うと、「どうしてあのとき持って帰らなかったんだ……!」と酷くショックを受けているイエリオがいた。いや、でも知らなかったんじゃしょうがない。しかも、海水で育ち、普通の水だと枯れてしまう珍しい植物だから、仮に持って帰っていても栽培が成功した確立はかなり低そうだ。
そんなことを話ながら研究所を出て、店に向かっていると――。
「あ、貴女!」
そんな大声が、聞こえてくる。わたしを呼んだのか定かではないが、つい、わたしたちは振り返ってしまった。声につられたのはわたしたちだけでなく、何人かの通行人が、大声を出したと思われる女性を見ていた。
でも、女性はわたしを指さしている。ということは、わたしを呼び止めたのか。
――確かに、どこかで見たことあるような……。
「浮気! 浮気だわ! フィジャくんがいるのに! 最低、最低!」
きゃんきゃんと吠えるような声。フィジャくん。――犬獣人の、お姉さん。
フィジャの勤めていたお店の娘さんだ。
わたしが彼女のことを思い出すことばかりに気を取られていたからか、彼女が何かを投げようとしていることに気が付くのが遅れた。
「危ない!」
イエリオが前に出て庇おうとしてくれるが、微妙に間に合わず、彼の腕に当たり、飛び散った汁がわたしの顔面に当たる。
どうやら、トマトっぽい野菜を投げてきたらしい。べちゃ、と実が地面に落ちた。よく見れば、彼女の持っている袋の中に、トマトっぽい野菜がたくさん入っているのが見えた。
あれを全部投げられたらたまったもんじゃない。当たればぐちゃぐちゃになってしまうし、食べられなくなるしでもったいない。
「ちょ、ちょっと待って――」
「浮気なんて、フィジャくんが可哀想!」
半泣きで彼女はトマトっぽい野菜を投げる。今度は、コントロールが悪く、わたしたちに届く前に、地面へと落ちた。
でも、わたしは言葉に詰まっていた。
浮気。フィジャが可哀想。
わたしがずっと、気になっていたことを、ざくりと刺すように、言われてしまったのだから。
エンエンマメもシオイモも、これだ、というものが発見されていないらしいが、以前行ったことのある調査で、食料が尽きたとき、その辺にあった果物や芋を食べた際、やたらしょっぱかったことがあると、イエリオが教えてくれた。
「もしかして、あれがシオイモ、とやらだったんでしょうか……!」
「あー、可能性はあるね」
シオイモやエンエンマメは海水で育ち、そのまま食べると丁度いい塩味になっている芋と豆である。味付けなんかしたら塩辛くて食べられない程になってしまう。
「近くに海があったなら、確実にシオイモですね」
「海はありませんが……塩湖のすぐ傍に生えていました」
「じゃあ、ほぼほぼシオイモと言ってもいいかも」
わたしがそう言うと、「どうしてあのとき持って帰らなかったんだ……!」と酷くショックを受けているイエリオがいた。いや、でも知らなかったんじゃしょうがない。しかも、海水で育ち、普通の水だと枯れてしまう珍しい植物だから、仮に持って帰っていても栽培が成功した確立はかなり低そうだ。
そんなことを話ながら研究所を出て、店に向かっていると――。
「あ、貴女!」
そんな大声が、聞こえてくる。わたしを呼んだのか定かではないが、つい、わたしたちは振り返ってしまった。声につられたのはわたしたちだけでなく、何人かの通行人が、大声を出したと思われる女性を見ていた。
でも、女性はわたしを指さしている。ということは、わたしを呼び止めたのか。
――確かに、どこかで見たことあるような……。
「浮気! 浮気だわ! フィジャくんがいるのに! 最低、最低!」
きゃんきゃんと吠えるような声。フィジャくん。――犬獣人の、お姉さん。
フィジャの勤めていたお店の娘さんだ。
わたしが彼女のことを思い出すことばかりに気を取られていたからか、彼女が何かを投げようとしていることに気が付くのが遅れた。
「危ない!」
イエリオが前に出て庇おうとしてくれるが、微妙に間に合わず、彼の腕に当たり、飛び散った汁がわたしの顔面に当たる。
どうやら、トマトっぽい野菜を投げてきたらしい。べちゃ、と実が地面に落ちた。よく見れば、彼女の持っている袋の中に、トマトっぽい野菜がたくさん入っているのが見えた。
あれを全部投げられたらたまったもんじゃない。当たればぐちゃぐちゃになってしまうし、食べられなくなるしでもったいない。
「ちょ、ちょっと待って――」
「浮気なんて、フィジャくんが可哀想!」
半泣きで彼女はトマトっぽい野菜を投げる。今度は、コントロールが悪く、わたしたちに届く前に、地面へと落ちた。
でも、わたしは言葉に詰まっていた。
浮気。フィジャが可哀想。
わたしがずっと、気になっていたことを、ざくりと刺すように、言われてしまったのだから。
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