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第六部

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 この魔法、詳しく伝えるべきか。

 今、この世界で、この研究書を読み解けるのは、おそらくわたしだけだ。そりゃあ、言語の研究が進んでいけば、いつか誰かが、この研究書を、全て正しく読むだろう。
 でも、現時点で、それが成されていないということは、今、この場で読めるのはわたしだけ、ということを示している。

 それはつまり、わたしが黙っていれば、師匠は世界を滅ぼした大悪党でなく、伝説の魔法使いの『キリ』でいられるわけだ。
 イエリオたちにとっては、過去の歴史を深く知れる、またとないチャンス。歴史の授業なんてものがあれば、確実に師匠は、悪い意味で名前が載り、師匠を知らない者はいない、と言われてしまうだろう。

 ――でも、わたしが黙っていれば。
 真実は隠されたままだか、師匠の名前も守られたままだ。

「――……ごめん、やっぱり、そんなに、読めない……かも。師匠は字が汚くて困るなあ」

 わたしは出来るだけすまなそうに感じてもらえるような笑みを浮かべながら、うそぶいた。
 イエリオはちゃんと上司に聞いてくれたのに、わたしは勝手に『なかったこと』にした。

 わたしだって、師匠の――キリスの弟子なのだ。あの人の魔法に魅入って、感動して、弟子にしてくれと頭を下げた。どうしようもなく、憧れているのだ。
 そんな人の名前と名誉に傷をつけることはわたしにできない。たとえ、それが真実であっても。弟子の、独りよがりな行動だとしても。

「おや、そうなのですか? まあ、これだけ字が汚――個性的だと、やっぱり読みにくいですよねえ」

 わたしの嘘に気が付いていないのか、それとも、気が付かないふりをして暮れているのか。イエリオはあっさりと、わたしを信じた。
 それが、どうしようもなく、罪悪感となってわたしに重くのしかかる。

「あ、では、単語を読める範囲でシーバイズ語で綺麗に書き写してもらっても? もし、今後同じ単語が載る文献が出てきたら、何か分かるかもしれませんし」

「……うん、分かった」

 まあ、そのくらいなら大丈夫だろう。わたしはイエリオにペンと紙を貰い、分かる範囲で書き出す。……本当にヤバそうな、真実に近付いてしまいそうな単語はこっそりと抜いたけど。

 それにしても、師匠はどうしてこんな魔法を作り出して、世界を滅ぼしたんだろう。

 あの人が、そんなことをするようには思えない。……弟子の欲目かもしれないけど。
 わたしがいなくなったシーバイズに、何があったのか、いつか分かる日が来るだろうかと思いながら、わたしは単語を書き写していくのだった。
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