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第六部

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 帰ってきたイエリオからの言葉は、「やり方や過程等は省いて、名前と、どういう効果が出るのか分かる範囲でだけ解読してほしいそうです」というものだった。まあ、それなら大丈夫か。
 呪いだなんて、結構難しい魔法、誰かの師事もなしに使えるようになるわけもない。イエリオが使った希望〈キリグラ〉のように、魔力さえあれば誰でも出来るある意味で簡単な魔法、というわけじゃないし。

 この現代で、唯一魔法をしっかり使えるわたしですら出来ないわけだし。まあ、わたしの、他人に説明するための設定、『細々とシーバイズの文化を引き継いできた』というものに類する人がいたら話は別、なのかもしれないけど。いやでも、現実的に考えて、そんな人いる? こうして文献が残っているなら、魔法陣を残すのは不可能じゃないと思うけど。

 わたしはイエリオから再度書類を受け取り、読み込んでいく。

 わたしが現代の共用語を読み書き出来れば、共用語に書き直すのだが、生憎、最近ようやく一般的な日常会話の単語を読み書きすることが出来るようになったばかりなので、こんな専門的な言葉が並ぶ研究書を翻訳することは出来ない。

 よって、前回同様、わたしが読み上げて、イエリオが書き写すことになった。こうして研究のお手伝いを続けるなら、いつかは一人で翻訳作業とか出来るようになるのかな。

「えーっと……名前は……長いな、これ。どこまでだ……カーフォ……違うか、カーフオーネトゥルム……あれ、これ本当にどこまで?」

 なんだか、いくつもの魔法の名前がくっついているように思える。あれもこれも、とにかく使う要素を全部くっつけたような名前。スーパーハイパーウルトラデラックス、みたいな、子供かよと言いたくなるような、どれかに絞ってくれと言わざるを得ない名前。

「……えっ、あ、これもしかしてここらへんの行、全部が名前?」

 文章だと思っていた部分が全部名前だった。しつこいというかくどい名前だ。あの人、別に名づけのセンスがなかったわけじゃないのに、凄いやけくそ感を感じる。なんのためにこんなもの作ったんだ。

「うーん……ところどころ読みにくいところがあるな……言いにくいし、暫定『カーフオーネトゥルム』で行きましょう」

 わたしが言うと、さらさらとイエリオが紙に書き写す。

「効果は……こうか、は……」

 魔法陣と、書かれた文章を行き来して――わたしは、言葉を失った。

「マレーゼさん?」

 わたしが固まってしまったのに気が付いたのだろう、イエリオが名前を呼ぶ。

「効果の部分、読めそうにないですか?」

「え、ああ、うん、えっと……人が死ぬ、タイプの奴かな」

 わたしは適当に言葉を濁した。でも、イエリオは、そこまで不思議に思わなあったようだ。自分の師匠が、人を殺すような魔法を作っていた、という事実にショックを受けている、と思ったのかもしれない。

 ――そんなんじゃ、ない。

 そんなレベルじゃない。

 不特定多数に影響を与える呪い。これがもし、発動したら――嵐、竜巻、地震に津波に火山噴火。隕石だって、降ってくるかも。そんな、ありとあらゆる、この世の全ての自然災害や災厄が、ほぼ同時期に、しかもかなりの期間に渡って発生する呪いの魔法。

 わたしが生きていた時代――前文明を滅ぼした『超大災害』。

 もしそれが、自然発生したものでないなら、まぎれもなく、この魔法が原因だったと、わたしには分かる。
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