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第六部

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「お、ついにつけるようになったんすね」

 わたしたちが首を飾るようになってから、一番に声をかけてきたのはオカルさんだった。わたしにお茶を用意してくれて、机にカップを置いたところで気が付いたらしい。
 いや、まあ、チョーカーとネックレスを送りあった数日前から、わたしが外に出て初めて遭遇した知り合いがオカルさんだから、当然と言えば当然なんだけど。

 今日はイエリオの勤める研究所にお邪魔していた。なんでも、新しい文献が見つかったとかで、解読してほしいらしい。シーバイズ語じゃなかったら、わたしも分からないけど、確認するだけ確認してほしい、と頼まれたのでとりあえず来るだけ来たのだ。
 分かるといいけどな、と思いつつ、資料を整理しているイエリオが帰ってくるのを、客人用らしいソファに座って待つ。

「お待たせしました」

「あれ、結構少ないね」

 イエリオが持ってきたのは、十数枚程度の書類だった。片手で持ててしまうほど。
 てっきりいつぞやのように、段ボールでドンッと持ってこられるものだとばかり思っていたのだが。

「私としてはもっと出てきて欲しいものですが、そう簡単には見つからないもので」

「や、自分的にはこのくらいが丁度いいっす。多すぎても手がまわらないし」

 本気で残念がるイエリオと、少し呆れたように手のひらを振るオカルさん。正反対な反応に、わたしは思わす少し笑ってしまう。

「それ、あれっすよね。伝説の魔法使い、『キリ』の研究書、っていわれてるやつ」

 キリ? どんな魔法使いなんだろうか。わたしがいたシーバイズでも聞いたことがない。わたしがいなくなってから、文明が滅びてしまう間に活躍した魔法使いだろうか。
 伝説の、なんて言われるくらいだから、よっぽど凄い人なんだろう。

「自分も魔法系の文献は興味あるんで、是非解読に参加したいんすけどー……。残念ながら、締め切り近い仕事が終わってないんすよねー」

 本当に残念そうな顔で、オカルさんは首を横に振った。

「もし解読出来たら、自分も教えて欲しいっす」

 「それじゃあ、あとはお二人で~」とオカルさんはお盆を持って去っていった。
 イエリオがわたしの正面にあるソファに座り、数枚の紙をわたしに渡してきて、その他のものはテーブルへと置く。あれはまた別の資料なのかな。

「伝説の魔法使い、というのは、今まで発見された研究書の署名に記されていて、かなり有名な人物だったのでは、と推測し、私たちの間ではそう呼んでいるんです」

 わたしはイエリオから貰った書類をぺらぺらとめくり、目を通す。
 『キリ』――キリ、か。
 これ、すごく、見覚えのある字なんだが……。

「まだこの言語の研究が進んでいないので、全て読むことが出来なくて。『キリ』も、おそらくは正しい名前ではないと思うのですが、『キリ』の部分だけは解読できたので、皆、キリと呼ぶんです。キリゴ、キリシア、キリガーラなど、様々な説があるんですが……」

 それ、きっとキリスだよ……。
 師匠の字が汚すぎて、新たな言語だと思われているのは普通に笑ってしまった。
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