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第五部

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 心配は多少あったものの、それでも『祭り』という名前がついている行事が近付くのはわくわくする。街がそれに向けて活気づいていくのが露骨に分かるとなおのこと。

 そんなわけで、今日から祝集祭が始まる。

 街はいろんなところで花にあふれかえっていた。花屋の露店が増えたのは勿論、普通の店先にも花が飾ってあったり、祝集祭の服を着た人が花で着飾っていたり。
 シーバイズでは花と言えば作物に咲くもの、道端に咲くもの、というイメージが強くて、わざわざ育てる人は少なかった。師匠や兄弟子みたいに、温室まで持っている人が稀有なのだ。まあ、師匠はシーバイズ人じゃないから例外なんだろうけど。

 前世の記憶をたどったって、こんなにも花があふれかえる祭りに参加したことはなかった。でも、嫌じゃない――どころか、あちこち綺麗な花であふれかえっているのは気分がいい。
 前世では花見に参加することはあったけど、あれは大体一種類の花を愛でることが多くて、色のバリエーションはあっても、これほどまで種類が豊富なのは初体験だ。

 一応、皆の予定を擦り合わせて、五人で集まる約束はしているものの、そこは皆社会人なので、祭りの期間中ずっと休みを取ることは出来ない。特に飲食店に勤めるフィジャは、今が一番稼ぎどきだろう。

 ウィルフも、最近冒険者を正式に辞め、民間警護団に入って研修をしているようだが、こういう祭りどきにスリとかが増えて仕事が増える為、新人だからといって休みをたくさん貰えるわけじゃないらしい。むしろ、今こそ経験を積め! とばかりにあちこち駆り出されるらしい。

 唯一まとまった休みが取れるのはイエリオだ。なんでも、常に観察を続けないといけないような研究をしている人以外はみんな、祭りの期間は休みらしい。それはそれで凄いな。
 イエリオは今、大きな研究を抱えていないようで、時折顔を出しに行けばいい程度で、ほとんどまるっと休み、と行ってもいいくらいの休みを貰っているらしい。

 イナリも結構自由に休みを取れるらしい。祝集祭の服を買う人で店が忙しくなるのは祝集祭が始まる直前まで。それ以降はほとんど暇になるので、営業時間を縮小するため休みが増えるそうだ。冒険者も、この時期は休む人が多いらしく、一応防具を売る日はあれど、そこまで売り上げにならないと言っていた。
 まあ、祭りが終わる頃には、次のシーズンの服を売り出すために、棚卸とか商品の入れ替えとかで仕事が増えるらしいのだが。

 そんな感じの四人なので、祝集祭初日は、イエリオと合流して、イエリオの家族と会うことになっていた。

 うう、祝集祭の雰囲気は楽しいけど、イエリオの家族に会うのは緊張するなあ。イエリオって、いかにも良いところのお坊ちゃんと言うか、お金持ち一族って感じあるもの。イエリオを見ていると、「うちの家柄にはふさわしくない」と言うような親に育てられたようには見えないけども。
 緊張しながらも、わたしはイナリに作ってもらった服に身を包み、待ち合わせの場所に向かうのだった。
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