上 下
346 / 452
第五部

342

しおりを挟む
 わたしの感覚だけで、美人だ、と思ってしまうのかと思っていたが、イナリが取り出した姿見を見たシャシカさんの反応を見ると、獣人基準でもなかなか良くなっているようだ。

「――驚いた。ブスがマシになってる」

 本当に、キョトンとした顔でシャシカさんが言う。そわそわと落ち着かないような様子で裾をひっぱったり、服を見たりしている。

「それなら、親父さんにも会いに行けるだろ」

 その一言に、少しむっとしたような表情を見せたシャシカさんだったが、ひらひらとしている上着の裾を見ながら、「まあ、普段着ている物よりは、マシかもね」と呟いた。

「……その服一枚で、シャシカの人生が変わる、なんて大げさなことは言えない。でも、少しでも、気持ちが変わってくれたら、僕は嬉しいよ」

 シャシカさんは、イナリの顔をじっと見て、黙り込んでしまった。

「――……まあ、今回は、顔を見に行くだけなら、行ってもいいかもね」

 少し考えた素振りを見せた後、シャシカさんはそう言った。シャシカさんに取っては、かなりの譲歩なのだろう。イナリの顔がパッと明るくなる。
 その表情を見て、シャシカさんが少したじろぐ。まあ、冒険者に戻って、とばかりいうシャシカさんの前では、ずっと険しい表情だったしね、イナリ。

「そ、その代わり! 責任もってこの造花分の花はイナリが買っておくれよ。自分でこんなに何本も買うなんて、みっともない」

 今、シャシカさんについている造花は結構な本数だ。友人や家族の本数が分かってしまうというなら、自分で買いそろえるのは恥ずかしいことなんだろうか。わたしはそのあたりよく分からないけど、イナリが快諾しているあたり、獣人的には気になるポイントなんだろう。

 それから、姿見で少し彼女自身の格好を眺めていたシャシカさんだったけど、祝集祭に出ることを告げて、元の服に着替えて帰っていった。
 上手く行くかは分からないけど、少しでもいい方に向かえばいいな。

「あ、造花片付けるの手伝おうか?」

 シャシカさんを見送った後、わたしはイナリに声をかける。シャシカさんに結構造花を使ったものの、それでもまだ結構残っているような――というか、イナリ、増やしてない?
 てっきり、造花を片付け始めたのかと思ったが、造花の山が少し大きくなっているように思う。……そんなにどこから出てくるんだろう……。

「これはこのままでいいよ。今から、ある意味本番だから。別に、シャシカの分で手を抜いたつもりはないけど」

「――本番?」

 わたしは思わず首を傾げた。すると、イナリが少しだけ、拗ねたような表情を作る。

「……僕に祝集祭の服を作ってほしい、って言ったの、君だろ」

 ――本番て、わたしのことか!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

美醜逆転世界で王子様と恋をする

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:204

駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

BL / 連載中 24h.ポイント:768pt お気に入り:37

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:8,814pt お気に入り:3,825

The Stillness・Wind-静者の番人と亡霊の謎-

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:214pt お気に入り:4

異世界転生〜色いろあって世界最強!?〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:1,045

ベルズ・ナイト・カフェ

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:5

元カノ幼馴染に別れを告げたらヤンデレになっていた

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:867pt お気に入り:0

処理中です...