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第五部

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「アタシに祝集祭に出ろ、ってこと?」

 半ば怒ったような声のシャシカさん。祝集祭は、普段会わない家族と会う、五年に一度の祭り。それを嫌がる、ということは、彼女はあまり家族と仲が良くないんだろうか。
 しかし、それを知っていたのか、イナリは何でもないように答える。

「そうだよ。……それを着て、少しでも祭りを楽しめたのなら、僕の、今の仕事を認めてほしい。そりゃあ、服一枚で何が変わるんだって思うかもしれないけど――なにも知らないまま、全否定されるのは嫌だから」

 まっすぐにシャシカさんを見て、イナリは言う。その視線に、シャシカさんは何か言いたそうにはしていたものの、黙ってしまった。
 しばらく、服を見て、「……分かった」と、渋々ではあるが、シャシカさんは頷いた。

「とりあえず、今、造花があるから、試しにそれで着てみて。当日、生花に付け替えればいいから」

 イナリはそう言いながら、迷いなく、散乱した部屋を漁る。どうして物がある場所を把握出来ているのか、わたしにはさっぱりだが、イナリが引き出しを開けたり、棚から物をとったりしても、間違えたと戻すことはない。

 イナリが造花を用意している内に、シャシカさんは、洗面所へと着替えに行ってしまった。

 治療道具の片付けをしながら二人の会話を聞いて見ていたが、片付けが終わると、することがなくなってしまう。つい、イナリの方をじっと見ていたのだが……。
 ぽんぽんと次々に出てくる造花に、つい、声をかけてしまう。

「えっ、イナリ、どれだけ造花出すの?」

 軽く山になっていた。祝集祭の花って、そんなに使うもんなの? てっきり、髪飾りに、とか、ブローチ代わりに、とか、一人で使う量は一本二本、多くても花冠のイメージでいたんだけど……。

「実際シャシカを見て花を選びたいからこれだけ用意した、っていうのもあるけど。祝集祭の花は多いほどいいから」

 なんでも、家族や友人で花を送り合うから、本数が多い程、人とのつながりが多いことになって、注目されるらしい。それ故、本数が少ないとさみしい人だと見られてしまうそうだ。
 そんなことを聞いていると、シャシカさんが戻ってくる。

「おお……」

 つい、わたしは感嘆の声を上げてしまった。
 少しボーイッシュでまとめながらも、可愛く仕上がっているあたり、非常にシャシカさんに似合っていると思う。

 正直、シャシカさんにはろくなことをされてきていないけど、それを考えても、素直に褒めたくなるような見た目をしている。
 今の段階でも結構凄いのに、イナリが造花を見繕いながらシャシカさんを飾っていくと、どんどん素敵になっていく。怪我のために巻いたはずの包帯なんかも、最初から衣装のデザインだったのでは、と思う程に映えていた。流石プロ。

 完成するころには、わたしから見たら、街で見たらつい振返って見てしまうような美人になっていた。
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