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第五部
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喧嘩が終わり、見世物が終わったとばかりに散って行く人たちの流れに逆らうように、わたしはイナリたちの元へと向かった。
「……冒険者の問題解決方法、乱暴すぎない?」
わたしの声は、自分で思っていた以上に、呆れの色が濃いものとなった。二人は座り込んで、疲れ切っている様子だった。
シャシカさんは怪我人だし、イナリは最近仕事の忙しさに目を回して疲れているだろうに、二人ともよくやるものだ。
それでも、双方に致命的な怪我がない辺り、流石というか、なんというか。
「で? 行くのはイナリの家でいいの? 怪我の手当しないと駄目でしょ?」
そう言うと、しぶしぶ、と言ったようにシャシカさんが「分かった」とつぶやいた。負けたからには従うらしい。脳筋というか、なんというか……。
「二人とも立てる? 歩ける?」
そう聞くと、二人はへろへろになりながらも、立ち上がった。イナリは明日も仕事だろうに、本当、よくやるものだ。
「明日、大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないけど、今、逃したら、間に合わないような気がしたから」
イナリはそう言いながら、服や髪についた砂を払う。確かに、冒険者ギルドを経由して依頼するよりは、手っ取り早かったかもしれないけど……。
シャシカさんも立ち上がり、汚れを払っている。見た目の怪我に反して、思っている以上に動けるようだ。冒険者ってこんなに頑丈なものなの? 彼女が強すぎるだけ?
シャシカさんは深く溜息を吐くと、「今日、冒険者ギルドに行くんじゃなかった……」とぼやいていた。確かに、もう少し早く彼女が冒険者ギルドに訪れていたら、丁度すれ違いで、会うことはなかったかもしれない。
そう考えると、わたしたちにとっては運がよかった、と言える。
「歩くのが難しいなら、手を貸すけど」
そうシャシカさんに言ってみたが断られてしまった。足取りは悪くないので、本当に手助けが必要ないんだろう。
イナリの家に向かって歩き出すが、シャシカさんは逃げる素振りがない。観念した、という言い方は悪いが、諦めたのだろうか。
ほとんど話すこともないままに、わたしたちはイナリの家へとたどり着いた。
サクサクと手当を済ませる。家の中の空気は重かったが、治療に専念していれば、そこまで気にならない。
二人の治療が終わると、イナリが一枚の服を取り出してきた。白地だが、裾や袖、襟元に金とオレンジの刺繍が入っている。
可愛い服だが、なんとなく、民族衣装のような印象を受ける服。
何だろう、と思っていると、イナリはそれを、シャシカさんに渡した。
「――これを着て。僕が作った、君の為の服だ」
いつの間に。確かに、わたしが作って、と言った服以外にも、最近、何か作り出しているなとは思ったけど、シャシカさんのものだったとは。
「これ……祝集祭の服?」
思わず、と言ったようにその服を受け取ったシャシカさんが、イナリに問うた。
「……冒険者の問題解決方法、乱暴すぎない?」
わたしの声は、自分で思っていた以上に、呆れの色が濃いものとなった。二人は座り込んで、疲れ切っている様子だった。
シャシカさんは怪我人だし、イナリは最近仕事の忙しさに目を回して疲れているだろうに、二人ともよくやるものだ。
それでも、双方に致命的な怪我がない辺り、流石というか、なんというか。
「で? 行くのはイナリの家でいいの? 怪我の手当しないと駄目でしょ?」
そう言うと、しぶしぶ、と言ったようにシャシカさんが「分かった」とつぶやいた。負けたからには従うらしい。脳筋というか、なんというか……。
「二人とも立てる? 歩ける?」
そう聞くと、二人はへろへろになりながらも、立ち上がった。イナリは明日も仕事だろうに、本当、よくやるものだ。
「明日、大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないけど、今、逃したら、間に合わないような気がしたから」
イナリはそう言いながら、服や髪についた砂を払う。確かに、冒険者ギルドを経由して依頼するよりは、手っ取り早かったかもしれないけど……。
シャシカさんも立ち上がり、汚れを払っている。見た目の怪我に反して、思っている以上に動けるようだ。冒険者ってこんなに頑丈なものなの? 彼女が強すぎるだけ?
シャシカさんは深く溜息を吐くと、「今日、冒険者ギルドに行くんじゃなかった……」とぼやいていた。確かに、もう少し早く彼女が冒険者ギルドに訪れていたら、丁度すれ違いで、会うことはなかったかもしれない。
そう考えると、わたしたちにとっては運がよかった、と言える。
「歩くのが難しいなら、手を貸すけど」
そうシャシカさんに言ってみたが断られてしまった。足取りは悪くないので、本当に手助けが必要ないんだろう。
イナリの家に向かって歩き出すが、シャシカさんは逃げる素振りがない。観念した、という言い方は悪いが、諦めたのだろうか。
ほとんど話すこともないままに、わたしたちはイナリの家へとたどり着いた。
サクサクと手当を済ませる。家の中の空気は重かったが、治療に専念していれば、そこまで気にならない。
二人の治療が終わると、イナリが一枚の服を取り出してきた。白地だが、裾や袖、襟元に金とオレンジの刺繍が入っている。
可愛い服だが、なんとなく、民族衣装のような印象を受ける服。
何だろう、と思っていると、イナリはそれを、シャシカさんに渡した。
「――これを着て。僕が作った、君の為の服だ」
いつの間に。確かに、わたしが作って、と言った服以外にも、最近、何か作り出しているなとは思ったけど、シャシカさんのものだったとは。
「これ……祝集祭の服?」
思わず、と言ったようにその服を受け取ったシャシカさんが、イナリに問うた。
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