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第五部

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 イナリの家に帰って、夕飯を済ませてから話を始める。内容は勿論、シャシカさんについてである。
 彼女がイナリが冒険者に戻ることを諦めることは一旦置いておいて、今のイナリを認めることに重きを置かないといけない。
 となれば、することは一つ。

「やっぱりここは、シャシカさんの防具を、イナリが見繕うしかないのでは?」

 イナリの実力を認めさせるには、それが一番だと思うのだ。ただ、問題は、彼女がおとなしくそれを受け取ってくれるか、だが。
 それに、あの大怪我。しばらくは冒険者業は休まないといけないだろう。というとは、しばらく防具の出番はない、ということで。

 即効性があるようなものには思えないが、本人も、あのボロボロの状況で再びイナリの前に来ることは考えられない、というのがわたし個人の意見。シャシカさんのことをよく知っているわけじゃないけど、でも、怪我をいい様に使って、こんなになっても諦められないと、同情を誘って駄々をこねることも出来たはず。

 でも、諦められないと言いながらも、あの場でシャシカさんは去った。つまり、イナリにあの姿を見られたくないか、少なくとも、そんな手を使う性格ではないのだろう。……イナリの家に侵入したり、わたしを殺そうとしたりしたことが、正々堂々としているかと言えば、疑問ではあるが。

「……選ぶことは出来るよ。見た感じ、服のサイズは昔とそんなに変わっているように見えないし。でも……」

 イナリの口が重くなる。言葉を選んでいるのか、その先を言いたくないのか、わたしには分からない。

「……防具を選んだこと自体は、昔、やったことあるんだ」

「それは、冒険者をやめてから?」

 わたしが問えば、イナリは首を横に振った。

「じゃあ、もう一度選んであげたっていいんじゃない? 今のイナリを認めて貰うなら、今のイナリのことをまず知ってもらわないと。あの感じ、今の職場に、シャシカさんが来たことないんじゃないの?」

 そう聞くと、「……確かに、ない」と思った通りにイナリは首を縦に振った。
 シャシカさんを見るに、昔のイナリとの思い出ばかりを見て、今のイナリをほとんど知らないように思うのだ。

 イナリのことを「服屋なんて」と言っていたのがいい証拠である。勿論、イナリの店は一般向けの洋服も扱っているし、イナリ自身もそっちの仕事をするけれど、彼はどちらかと言うと防具の売り場担当っぽいし。
 イナリと最近知り合ったばかりのわたしのほうが、彼の仕事のことを知っているくらいである。

「とはいえ、シャシカさんの怪我、どのくらいで治るのかな」

 あれは結構完治に時間がかかりそうだ。防具を選ぶことは出来ても、ある程度怪我が治らないと、試しに装備してもらうことも出来ないだろう。
 わたしは医療の知識が全くない。イナリも似たようなものだろうが、冒険者としての過去がある分、経験則で分からないだろうか、と聞いてみると、イナリは少し、顔をしかめた。
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